まずは、下部のデータを見ていただきたい。学校情報ポータルサイト「みんなの高校情報」全47都道府県の偏差値60以上の公立・国立・私立高校の資料によると、奈良県は、偏差値60を超える高校が14校もある。卒業後、多くは全国の難関大学に行くが、そこから地元にUターンしてくる割合はわずか10.3%しかいない。
また、かつて日本唯一の世界の窓口として栄え、明治時代には、鉄鋼と造船で日本の富国強兵に寄与した長崎は、偏差値60以上の高校が13校あるのに対し、わずか5.6%のUターン率となっている。
この数字が示すのは、大学を卒業した若く優秀な者たちが、地元に戻って働きたい会社がない、それゆえ、Uターンをしないという決断に至っているということではないか。上場企業の数を見てみると、奈良は4社で、長崎に至っては0社。つまり、一見すると、上場企業の数とUターン率は比例しているといえる。
地方創生による日本再生
上場しているか否か──。この二者間の差異は、学生のみならず、人生を決断するうえで決して小さい要素ではないことを、日本M&Aセンター代表取締役社長 三宅卓は自身の経験を通して知っている。
三宅は、中小企業M&Aの第一人者として黎明期より業界を牽引してきた人物だ。いまやM&A業界といえば、上場企業の年収ランキングで上位を占める業種として人気化し、優秀な学生が集まりやすい業界として認知されている。なかでも、2006年にマザーズ上場、翌年07年には、当時4番目の早さの市場変更である東証一部上場を果たした日本M&Aセンターは、現在、年間8000名もの応募があるほど注目される企業になった。
しかし、三宅自身もかかわった日本M&Aセンター設立当初は優秀な人材を集めるのに大変苦労したという。三宅は振り返る。「当時、三菱銀行の行員を口説いていたんです。その行員が首を縦に振ってくれた3日後、内定辞退の連絡が来た。理由は、義父が怒鳴り込んできたからだという。『三菱銀行の行員だから娘をやったのだ。M&A企業? 上場もしていないところに行くくらいだったら、娘を返せ』、と」