地球温暖化対策として二酸化炭素などの排出規制が新設されたことで、世界各国の自動車・二輪車メーカーは電気を動力源としたEV(電気自動車)の開発を急速に進めている。だが既存ビジネスを抱える大手メーカーはEV転換に出遅れている。ここでは、親族企業や新鋭と競合しつつ、国外の新興企業と協業することでインドという巨大市場で巻き返しを図る大手メーカーの戦略を紹介しよう。
ニューデリーの南270km。ジャイプールのヒーロー・モトコープ(HeroMotoCorp)の研究開発施設には、同社のオートバイとスクーターが展示されている。特に目を引くのは、日本の本田技研工業(ホンダ)とのかつてのジョイント・ベンチャー、ヒーロー・ホンダが1985年に発表した最初のオートバイで同社を象徴する「CD100」だ。
このCD100などのモデルが成功したおかげでヒーローは2001年、オートバイとスクーターのメーカーとしては世界最大となった。現在もインドの二輪車市場で台数にして37%の圧倒的シェアを誇り、かつてのパートナーであるホンダのシェア25%を上回っている。
だが、ヒーローの優位もEVシフトが進めば脅かされかねない。21年3月までの1年間のインド市場での電動バイクの販売台数は、二輪車全体のわずか1.3%(14万3837台)にすぎなかったが、それでも過去3年間で4倍以上に増えている。
インド政府も電動バイク市場の成長を支えている。消費者が電動バイクを購入する際の補助金を50%増やし、インセンティブの上限をこれまでの2倍にあたる価格の40%にまで引き上げた。高額な電動バイクを類似のガソリン車と同水準の出費で入手できるようにしたのだ。
21年9月半ば、政府は電気自動車や水素燃料電池自動車の国内生産を促進するため、35億ドル(約4000億円)のインセンティブ付与を発表。30年までに国内で販売される新車の少なくとも30%をEVにするとの目標を掲げている。
数十年にわたりインド市場を席巻してきたヒーローにとって、EVの台頭は最大の潜在的脅威だ。同社はまだ、電動バイクを販売していない。一方で、国内のスタートアップや競合大手など、インドでは10社以上が50種を超える電動バイクを販売している。
それでもヒーローの会長兼CEOのパワン・ムンジャル(67)は、ヒーロー・モトコープがEVシフトを進めれば、いまだ初期段階にあるEV市場を支配できると考えている。
「我々には、EV業界のリーダーとなる能力や強みはもちろん、意欲も資金力もあります」(ムンジャル)
だが皮肉にも、EV業界におけるムンジャルの最大のライバルの一人は、甥のナビーン・ムンジャルなのだ。ナビーンはヒーロー・モトコープとは完全別会社の未公開企業「ヒーロー・エレクトリック・ビークルズ」を率いており、その電動バイクは現在、インドで最大のシェアを誇る。10以上のモデルを展開し、20年のEV販売台数は5万台以上。CEOのソヒンダー・ギルは、大手のヒーロー・モトコープによる参入は大きなEVシフトが始まっている証拠であり、市場拡大の追い風になると話す。
「すべての企業が成長できるだけの余地が、十分すぎるほどありますから」(ギル)