ただし、ヒーロー・モトコープがヒーロー・エレクトリックのブランド名でEVを販売することはできない。複雑なこの状況は、10年にムンジャル一族が、同族経営のヒーロー・グループを4分割したのが原因だ。パワンが最も収益性の高い部門を確保した一方で、ナビーンの一族は自社名とその製品にヒーロー・エレクトリックを使う権利を手にしたのだ。
ヒーローのもう一つのライバル企業は、国内の配車サービス企業「オラ(Ola)」の子会社「オラ・エレクトリック」だ。同社は3億2200万ドルを投資して、年間1000万台のEVスクーターを生産できる工場をインド南部に建設している。共同創設者バビッシュ・アガルワルが21年7月、ツイッター上で電動スクーターの発売を発表すると、予約開始からの24時間で10万件もの注文が殺到した。
挽回の成否を決めるのは研究開発か
後発というハンデを補おうと奔走するヒーローだが、その成否を左右するのがジャイプールにある研究施設「技術革新グローバル・センター」だ。同社が将来的にEVで成功するかどうかは、16年にオープンしたこの施設などにかかっている。ジャイプールにある250エーカーのこの施設では1000人のエンジニアが働き、研究施設やガソリン駆動モデルと電動モデルのテストコースを備えている。
「この研究開発センターから新たな商品や新たなテクノロジーを発信していきます」(ムンジャル)
ムンジャルは、22年3月までに最初の電動バイクとなるスクーターを発表すると話す。21年8月に公表された創業10周年記念式典の1時間以上にわたる映像では、わずか1分ほどだが新しいスクーターの試作品らしきものが紹介されている。
彼は製品については口を閉ざすが、ForbesAsiaのインタビューでは、新しい電動スクーターにはプラグ充電が可能な電池を搭載することになると話してくれた。
「今後、当社だけでなく世界的にこの業界全体がEVや同様の技術にシフトするでしょう」
ジャイプールの施設は、ヒーローがいかに研究開発を重視しているかを物語っている。白く輝く壁の中では、インドのでこぼこ道でガタガタと揺れる状況を模倣したランニング・マシンのような機械を使い、オートバイ・フレームのストレス試験が続く。さらにそのそばでは、エンジンの耐久性をチェックするため連続200時間の試験走行などが行われている。屋外には、高速道路から起伏の激しいオフロードのトレイルまで、多種多様な道路を再現した試験走行用トラックが用意されている。
ムンジャルは、パートナーシップの構築によってもヒーローの未来を拓こうとしている。ヒーローは16年、「30 UNDER 30 ASIA」に選ばれたことのある2人が13年に創業したインドの電動バイクメーカー「エーサー・エネジー」に投資。現在35%を保有している。両社はインドの高速充電器の統一市場基準を策定するために協力し、ヒーローはそれに基づいて公共充電インフラを構築する計画だ。
21年4月には、世界最大級のバッテリー交換サービスで台湾のスクーターと電動オートバイの97%を制する「Gogoro(ゴゴロ)」との提携も発表された。ムンジャルは、ヒーローのEVではゴゴロのバッテリー交換テクノロジーと通常の充電を並行させていくと述べている。