眼内にコンタクトレンズを移植することで新たな可能性を切り開く近視治療を実現する「ICL」。人生100年時代の近視治療において、ICLはどのような役割を果たすのだろうか。
今回の対談は、屈折矯正手術の権威であり、ICLの認定医を審査するエキスパートインストラクターである中京眼科視覚研究所所長・市川一夫(以下、市川)を迎え、同じくICLインストラクターの医療法人先進会先進会眼科理事長・岡義隆(以下、岡)が安全性を含めたICLの画期性について質問していく形式で始まった。
認知されてきたICL手術と、そのリスク
岡:現在コンタクトレンズ・ユーザーは2,000万人。そのなかで日に日に注目が増しているのが、ICL(眼内コンタクトレンズ)ユーザーです。最先端眼科治療に造詣の深い市川先生は、かなり早い段階でICLの可能性に注目していらっしゃいました。
市川:近視治療のための屈折矯正手術は、レーシックのように角膜そのものを削って屈折を変化させる方法と、目の中に有水晶体眼内レンズを挿入して屈折を変化させる方法の2種に大別されます。
日本で先に注目を浴びたのは2006年に厚生労働省の認可が降りたレーシックでしたが、個人的には眼内レンズに注目していました。角膜を傷つけるのではなく、眼内にレンズをプラスするという発想に引かれたのです。そして02年に韓国で開催された講習会にも参加し、日本では2番目の早さでライセンスを取得しました。
角膜を削る方法は、元に戻す方法がないことが不満でした。その点、虹彩(こうさい/角膜と水晶体の間にある薄い膜)の裏側にレンズを挿入するICLは、万が一感染症などの問題が起きたとしても、取り出すことができる。その可逆性が素晴らしいと感じました。
岡:市川先生には、私のICLライセンス取得時にインストラクターを務めていただきました。そのとき「疾患があってメスを入れるわけではない。それだけに、一層丁寧に行うべき」とおっしゃられていたのが印象に残っています。
市川:ICLはサージャンの技量もさることながら、患者に寄り添う誠実さも問われる手術だと思っているからです。
ICLはレンズが入る十分なスペースがあるかを検査し施術の可否を診断するところから始まりますが、ICLを埋め込んだから終わりというわけではありません。長期間にわたり総合的に目の健康を見極める能力も不可欠と考えています。
なぜならICL手術を受けると患者は、近視が治ったと感じてしまいますが、実際は眼内レンズを入れているからであり、近視自体が治ったわけではありません。
ICLがなにか問題を起こすよりも、患者が近視であることを忘れてしまうことのほうがむしろリスクと言えるでしょう。患者に人生の最後まで“見え続ける”生活を送ってもらうためには、そうした強度近視による網膜剝離や黄斑変性症、失明原因第1位である緑内障などへも気を配らなくてはなりません。
そのためICLライセンスを得るのは難しい。日本全国に1万5,000人の眼科医がいても、取得者はまだ300人ほどです
岡:ICLサージャンである前に、眼科医であれということですね。
「ICLサージャンである前に、眼科医であれ」 岡 義隆
市川:そのうえで、最善の策として眼科医はICLを含めた施術策を提案する必要があるのです。
高齢化社会では当然、失明リスクは増えていきます。ただ早い段階で病気を見つけ、薬や手術などで治せば、目の悪化スピードを緩めることはできます。高齢になれば高確率で白内障を発症しますが、それまでの期間、ICLは視力を支えてくれます。そして白内障手術の際に邪魔にならずに簡単に取り除くことができ、手術時にはそのときの生活スタイルに合わせた視力のサポートが可能なため、それまでいかに見え続ける目を維持するかが、ICLの目指す大きな役割なのです。
岡:市川先生はどのような方にICL手術を薦めているのでしょうか?
市川:近視だとしても、メガネによる矯正で満足しているのなら、ICLの必要はありません。しかしコンタクトレンズとなると話は違います。通常、コンタクトレンズは安全だと思われがちですが、付け外しのときに角膜を傷つける、感染症を起こすなどの可能性がつきまとい続けるのです。長期にわたって考えれば、そのリスクは決して低くはありません。
眼科医として私はそうした患者には、いまお金をかけられるのなら、ICLのほうが全体のリスクは減少すると伝えます。そもそもコストパフォーマンスにしても、ワンデータイプの使い捨てコンタクトレンズを長期間使うよりも、ICLは交換しない分、むしろ低価格になるでしょう。
術後の不具合解消や安全性を目指して改良したHole-ICLが登場
「薦めることができるのは、20年間、ICLを見続けているから」市川一夫
岡:ICLは、山王病院アイセンター(眼科)センター長・清水公也医師が改良されたHole-ICLにより、さらに進化したと思います。市川先生も同様にお考えでしょうか。
市川:以前のICLは、眼内を満たす房水の流れを少々妨げ、わずかながら白内障のリスクがありました。しかし私も治験に参加したHole-ICLは、中央に穴を開けることでそのリスクも回避できたと思います。
私がICLおよびHole-ICLを薦めることができるのは、少なくとも私だけでも20年間、ICLを見続けているからです。HoleICLにしても10年のデータが積み上がっています。そして厚生労働省の認可も下りている。そうした裏付けがある製品を選ぶことが大切です。
術後に関しては、私の20年のキャリアのなかで、精神疾患患者で一例、ICLを取り出したことはありますが、そのほかの例はありません。
岡:そしてICLは、視力の長期安定性や解像度の高さ、安全性などの重要なエビデンスが確立されています。人生100年時代、大切な目を快適に使い続けるためだけでなく、今後発生が予想される大規模な災害時などにも、自らの命を守るために安全に行動できるようにするという観点からも、より多くの方々にICLのよさを知っていただければと思います。
2010年2月に厚生労働省より有水晶体後房レンズ(医療機器製造販売承認番号:22200BZY00001000、販売名:アイシーエル)が承認され、清水公也医師考案のHole-ICLは2014年3月に承認(医療機器製造販売承認番号:22600BZX00085000、販売名:アイシーエルKS-AquaPORT)された。※ICLとはImplantable Contact Lens=眼内コンタクトレンズの略称です。
岡 義隆◎日本眼科学会認定眼科専門医、ICL認定医・インストラクター。愛知医科大学卒業。聖マリア病院眼科外来医長などを経て、日本白内障屈折矯正手術学会理事・代議員、医療法人先進会先進会眼科理事長を務める。
市川一夫◎眼科医、医学博士、医療法人いさな会中京眼科視覚研究所所長。1978年、愛知医科大学医学部卒業。83年に名古屋大学大学院医学研究科で外科系眼科学を修了し、社会保険中京病院(現在のJCHO中京病院)主任部長も務めた。公益社団法人日本白内障屈折矯正手術学会(JSCRS)第10代理事長。
スター・ジャパン合同会社
http://discovericl.com/