起訴状によると、2021年当時にOpenSeaのホームページにどのNFTを表示するかを選定する立場にあったチャステインは、公開される前の約45個のNFTを購入して、その直後に売却して大きな利益をあげたという。
NFTは、金融証券のインサイダー取引を禁止する1934年の証券法の対象ではないため、6月1日に公開された起訴状が、この事件を「インサイダー取引」と呼んでいるのは注目に値する。検察は、この分野の悪しき慣行を容認せず、連邦詐欺罪を適用することを明確にした。
「本日の起訴は、株式市場であれブロックチェーンであれ、そこで起きるインサイダー取引を根絶しようとする当局の姿勢を明確にするものだ」と、プレスリリースで連邦検事Damian Williamsは述べている。
この起訴の核心は、チャステインが雇用主のOpenSeaの機密情報を使って金儲けをしたことだ。起訴状には、彼が取引を隠すために「匿名のデジタル通貨ウォレットとOpenSeaの匿名アカウント」を使用し、詐欺の疑いのある行為で得た収益を隠蔽しようとしたと書かれている。また、彼の詐欺容疑に紐づくあらゆる収益の没収を求めている。
NFT市場では、今回のようなインサイダー取引と思われる行為が横行している。フォーブスは、世界第2位の資産家であるLVMH会長のベルナール・アルノーの息子の、アレクサンドル・アルノーが、2月にNFTの疑わしい取引に関与したことを報じていた。
彼は、関係者から入手した情報をもとに、HypeBearと呼ばれるクマのアートのNFTコレクションの中から、最も希少価値が高いものを購入し、数万ドルの利益をあげていた。アルノーの広報担当者は、彼が内部情報を得ていたことを激しく否定したが、NFT市場の透明化を目指すテクノロジー企業、コンベックス・ラボ(Convex Labs)によると、アルノーが全くの偶然で、そのNFTを購入した確率は、44万分の1だという(ちなみに、人間が雷に打たれる確率は生涯で約1万5000分の1とされている)。
今回の起訴は、他のNFTのインサイダー取引も、詐欺とみなされる可能性があることを示している。例えば、NFTの発行元が、すべての参加者に公平に販売すると約束しつつ、特定の人物にレアリティ(希少性)に関する情報を漏らした場合、詐欺罪に問われる可能性があるのだ。また、チャステインが行ったとされるように、会社の内部情報を悪用した者も、詐欺罪に問われる可能性がある。
OpenSeaの広報担当者は、起訴状が公開された後、「世界をリードするNFTのWeb3マーケットプレイスとして、当社は信頼と誠実さをすべての行動の中核に置いている」と述べた。「ネイトの行動を知ったとき、我々は調査を開始し、最終的に彼に会社を去るよう求めた。彼の行動は、当社のポリシーに違反し、当社の価値観と原則に真っ向から対立するものだった」