岸田首相の「政局重視」の姿勢は今回が初めてではない。2021年10月19日公示、10月31日投開票だった総選挙でもそうだった。このときは、英国グラスゴーで10月31日から11月13日まで、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が開かれた。岸田首相が11月1、2両日に開かれる首脳級会合への出席を表明したのが10月26日だった。自民党関係者は「あのときも、総理は総選挙後に政局になるのではないかと考え、COP26に出席するかどうか悩んでいた」と語る。このときは無事、総選挙で勝利して、首脳級会合ではバイデン米大統領から祝福責めにあった岸田首相だが、裏方は、首相が出るのか出ないのかで、最後まで気をもんだという。
では、「岸田首相は外遊が嫌いなのか」と言えば、そうではない。岸田首相は今年1月、米国と豪州への外遊を狙っていた。そもそもは、21年10月の政権発足以来、日米首脳会談の実現に強い意欲を示し、外務省を急かし続けていた。さらに、1月には核拡散防止条約(NPT)再検討会議がニューヨークで開かれる予定になっていた。広島県選出議員として核軍縮に強い意欲を示す岸田首相は、NPT会議への出席にも意欲を示していた。新型コロナウイルスの流行からNPT会議が延期になったうえ、米国が首脳会談開催に慎重だったため、訪米は取りやめになった。ただ、当時の外務省内では「NPT会議なんて、これまで副大臣級が出席してきた会議なのに、いきなり総理が行くのか」という戸惑いの声も上がっていた。
こうした経緯を重ね合わせると、岸田首相の頭のなかは、政局が最優先で、外遊は政権維持に支障が出ない範囲でやりましょう、という構図になっているようだ。ただし、自分の関心がある核軍縮には強い意欲を示すため、「外遊の王道」から外れるケースも出てきてしまう。そして、慎重な性格故に、その判断はいつもぎりぎりのタイミングで行われることになる。
外交や安全保障も、首相が統括するあらゆる政策のうちの一分野に過ぎないと言うことなのかもしれない。ただ、ロシアや中国、北朝鮮の脅威が増大して外交と安全保障の重要性はいつにも増して高まっている。NATO首脳会議に出席を決めたのであれば、それは高く評価されるべきだろう。ただ、4年8カ月も外相を務めた政治家として、もう少し,外遊の王道を歩む必要があるのかもしれない。
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