世界経済フォーラム(WEF)、「年次総会2022」のアジェンダからご紹介します。
・「ウェルビーイング」という概念は、個人が幸せと感じている状態から、社会と経済のあり方を包括的に変化させるものへと広がっています。
・日本は、政府がかかげる「新しい資本主義」のもと、成長のバランスを取りながら富の再分配を行うことを目指しています。
・日本は、ウェルビーイングを一層重視することで、経済的利益だけでなく人と地球を大切にする社会を築こうとしています。
かつて「幸福な状態」と定義されていた「ウェルビーイング」は、その後、医療などの分野で主に使われるようになり、今では経済的側面の充実のみならず、住環境や安全、文化、食、生活環境の豊かさをも指す、より包括的な概念となりました。つまり、ウェルビーイングとは、生きる目的そのものなのです。
日本では、岸田首相が提唱する「新しい資本主義」の中に、創意工夫や新しいアイデアを生み出すために不可欠な「人的資本」「人」に投資することも含まれ、今後の国の戦略に不可欠な取り組みと位置付けられています。
また、世界経済フォーラムのクラウス・シュワブ教授が著書「The Great Narrative」で指摘しているように、「世界的に進歩の尺度として他の指標を用いることが流れになると、生物多様性や社会の結束などのようにGDPでは測れないものを重視するようになる。
その場合、少なくとも先進国においては、GDP成長率が100分の数パーセント低下したとしても、環境や社会といった要素のスコアが高い国(「バランスのとれた」質の高い成長をしている国)では、大きな問題ではないと考えるかもしれない」と書いています。
また、「日本の高い生活水準と幸福度指標は、GDPがほとんど伸びなくても(ただし、その中でも一人当たりGDPは着実に伸びている)、希望をなくす必要はないことを教えてくれるのだ」とも述べています。
作家でありパブリックスピーカーでもある山口周氏は、「The Great Narrative」のインタビューの中で、日本が登山型の社会から高原型の社会への移行について言及。「20世紀の日本は、山を登り、アメリカやイギリスに追いつくという『登山型社会』だった。それはかつて非常にうまくいったが、いまはそうではない。だがこれは停滞ではなく、近代化の完成だ」と述べています。
日本では、物質的な豊かさのみを追い求めるのではなく、包括的なウェルビーイングを重視する姿勢やトレンドが、企業および組織の戦略やビジネスアイデアにも影響を与えています。住みやすく、安全な社会やコミュニティが好まれ、文化的な充実や美食へのあくなき探求など、数字に表れない価値が日本ではより重視されてきているのです。