2008年と2022年、2つの「過去最高益」。その違いとは?
トヨタ自動車は、「売上高から当期純利益まで、全ての項目で過去最高を記録」した──。
これは、直近の2022年3月期連結決算の記者会見でトヨタが発表した情報ではない。14年前の2008年3月期決算説明会の場で、トヨタが発表した内容だ。ちょうどリーマンショックで世界経済に激震が走る直前のことだった。
一方、トヨタは5月11日に2022年3月期決算を発表し、新型コロナウイルス感染症の終息が未だ見えないなかでも、売上高31兆3795億円、営業利益2兆9956億円、当期利益は2兆8501億円を計上したことを公表した。いずれもこれまでの最高益を更新するものだ。
しかし、今回の決算発表の場でトヨタの出席者の口から「最高益」という言葉は最後まで出ることはなかった。この両方の時代の決算発表は、最高益を更新した事実は似ているように見えるものの、その内容は大きく異なっている。2つの「最高益」は、何が違うのだろうか。
拡大の「中毒的作用」とは?
2つとも最高益を更新したが、前者は実は危険をはらんだ数字であった。最初の最高益の翌年、2008年9月のリーマンショックが引き金となりトヨタの決算は一転して赤字に転落する。創業以来の営業赤字4610億円を計上して大打撃を受けたのだが、実は苦境の中身は「世界的不況」の影響という一言では説明できない厳しさがあった。
巨額の赤字額をだすと同時に2009年8月、アメリカでトヨタ車に乗った家族4人が事故死。これがきっかけとなり、「品質」を問われる問題が発生する。世界中でリコールが起き始め、大規模リコールに発展。2010年2月には社長に就任したばかりの豊田章男が米議会での公聴会に召喚される。赤字と品質問題に追われていると2011年3月の東日本大震災でサプライチェーンが寸断。巨大企業はまさに危機の連鎖にさらされたのである。
なぜ世界のリーディングカンパニーが品質問題を起こすほど、信用を失墜させたのか。「過去最高益」という数字の裏に潜んでいた危機的な状況を見抜いたのが、投資顧問会社スパークス・グループ社長の阿部修平だ。彼は自著『トヨタ「家元組織」革命』(6月1日発売)の中で、それをトヨタの「資本の論理」の時代と指摘している。当時のトヨタの経営は、利益追求と売上拡大を最優先とする「資本の論理」にもとづいた拡大路線を走っていたというものだ。
「資本の論理」は売れているところに集中投資して拡大・成長を目指すのだから、私たちもそれが正しいと思っている。しかし、阿部の取材でトヨタの社長である豊田章男はこう言っている。「拡大にはさらなる拡大が必要な中毒的作用がある」。2009年6月に社長に就任する以前から、経営会議で拡大のための拡大について慎重な意見を言っていたという。その意見は潰されたのだが、なぜだろうか。