法務分野で10年以上の経験を積み、検察側と弁護側の両方に携わってきたキャリアをもつグウィンは、大きな利害が絡む交渉をうまく乗り切るうえで、パースペクティブ(視点)がどのような役割を果たすのかについて語ってくれた。
視点の重要性
刑事司法はそもそも敵対的な性質をもつため、視点と理解の重要性はよりいっそう高くなる。ひとつの案件のなかには、さまざまな視点と利害が内在している。ドメスティック・バイオレンス(DV)といった深刻な事態が絡んだ告発となれば、その傾向はますます強い。
被告が無実をあくまで主張する場合、どんな種類の司法取引であっても許容されないように見えるだろう。その一方で、正義と終結を望む真の被害者がいる可能性もある。彼らの視点の「強さ」も重要な要素となるだろう。
交渉者としての姿勢と戦略は、異なった視点、および/もしくは対立する視点を理解することによって導かれるべきだ。相手の視点を理解しようとすることにより、感情的な観点から言えば、信頼関係を構築するうえでのカギとなる共感を育むことができる。とはいえ、実質的な意味でのメリットもある。
グウィンは、検察側と弁護側の両方に携わった経験から、視点の戦術的価値について詳しく述べている。「検察官としては、被告人弁護人の立場に立って物事を考えることが極めて重要だ。弁護人がどう感じているかはもちろん、事実をどう提示するつもりなのかという面でも、相手の立場に立たなくてはならない」
理解を阻む障壁
交渉に絡む大きな利害はしばしば、相互理解を阻む障壁となる。たとえば刑事司法では、関係者の多くが感情的・心理的な面での対応に苦慮しており、それが自分とは異なる視点の受け入れを難しくしている。
このため、特定の問題や結果に個人的にこだわりすぎているときは、努めて意識的に客観的な姿勢を保つよう、グウィンはリスナーにアドバイスしている。問題が発生するのは得てして、何かに固執しているときなのだ。
「自分自身(と他の関係者)の要望に共感することは重要だ」とグウィンは言う。「しかし、何かに固執しすぎて身動きがとれなくなってしまうと、それが障壁となることがある」
グウィンは、共感することの重要性を訴えながらも、他の弁護人や検事に対して、目にしている行動の根本にある原因は何かを考慮するよう促している。
法律家は、「我々の双方は、どのようにして今のような状況に至ったのだろうか」と自問自答するよう、自らを習慣づけることができる。
そこを起点に、自らの視点と、特定の結論にたどり着くまでのプロセスを説明するようにしよう。敵対する相手に対して、説明を求めるのもひとつの手だ。たとえば被告人弁護人は、検察側から司法取引を提案されたら、その決断に至った過程を明確にしてほしいと依頼することができる。これは、合意内容を依頼人に正確に説明するため、として正当化される。
大きな利害が絡んだ交渉の場で、こうした障壁を絶えず乗り越え、心を開いた姿勢を保つために、グウィンは自らに、こう自問自答しているという。「これはこの状況で、相手からどう受け止められるだろうか」