──リーダーシップ・プリンシプルを行動に移す「3つのメカニズム」とは?
ブライアー:1つ目が「年間計画策定のプロセス」だ。各チームは「シングルスレッド(専任)・リーダーシップ」という概念の下で自律的に仕事を進めるが、年間業務計画を前年に策定する。
次に、上級幹部の「Sチーム」が、その構想のなかから膨大な数の項目を選ぶ。これが、メカニズムの2つ目である「Sチームの目標設定プロセス」だ。これらの目標はデータ駆動型で、「具体的」「測定可能」「達成可能」「関連性」「期限」の頭文字から成る「SMARTゴール」と呼ばれ、各目標には「オーナー」がいる。
3つ目の「報酬に関する計画」はすでに述べたが、長期的思考と顧客へのこだわりを推進する報酬体系が特徴だ。
ワーキング・バックワーズの本質
──先ほど話に出た「シングルスレッド・リーダーシップ」とは何ですか。
ブライアー:会社の成長と人員増に伴う部署間の調整を減らし、価値の創造やイノベーションを増やすべく、自律的なチームで業務に当たることだ。内部調整の原因は、ほかの部署に許可を求めたり、複数のグループにソフトウェアの作成を頼らねばならなかったりと、組織的・技術的依存関係がまん延していたことにあった。
そこで、依存関係と調整を極力なくし、目的ごとに「シングルスレッド・チーム」を設け、権限を定め、境界を明確にした。専任の上級リーダーがいないと、重要なことを素早く実現できない。デバイス・サービス部門の上級バイスプレジデント、デイブ・リムプは、「創造的な仕事を失敗に導く最も確実な方法は、片手間の仕事として任せることだ」と言っている。
シングルスレッド・リーダーシップの確立に何年もかかった。チームの人数を6〜12人に絞る「ピザ2枚チーム」体制で自律的にプロジェクトを進める。
──著書のタイトルでもある「ワーキング・バックワーズ」(逆向きに取り組む)プロセスについて説明してください。
ブライアー:リーダーシップ・プリンシプル1つ目の「顧客へのこだわり」に徹し、次に何を創出すべきかを見いだすためのプロセスだ。あるべき顧客体験を最初に考え、新たなアイデアを磨き、真実を見つけ、開発の是非を決める。
その第1のツールが、開発前に書く「プレスリリース/よくある質問(PR/FAQ)」だ。顧客層を定義し、新製品・サービスで解決できる問題とは何かを説明する。このプロセスで、キンドルやAWS(アマゾン・ウェブサービス)、S3(シンプル・ストレージ・サービス)を開発した。
──日本企業が、アマゾンのようなイノベーションの「ホームラン」を打つために必要なことは何でしょう?
ブライアー:アマゾンジャパンの成功を見ても、持続性のある長期的なものを築くには、「顧客にこだわる」「長期的発想」「創造する情熱」「優れた運営」という4つの理念が必要であることがわかる。
これまで話した理念やプロセスは、組織の規模や地理的条件、業界に関係なく応用できる、普遍的なものだ。
コリン・ブライアー◎ワーキング・バックワーズ共同設立者。元米アマゾン・ドット・コム・バイスプレジデント。1998年に同社に入社。12年間、バイスプレジデントをはじめ、経営リーダーを務める。CEO付きのテクニカル・アドバイザーとして経営参謀も歴任した。