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2022.05.27 16:00

[グレートカンパニーアワード2022]マザー・キー ファミール産院 グループ顧客感動賞

経営者は、自身が率いる企業の価値がどこにあるのか、顧客に対して感動を与えることができているのか、顧客に愛情をもって接しているのか、これらを常に問い直さなければならない。船井総合研究所が教育性・社会性・収益性を備えた持続的成長企業を褒賞する「GREAT COMPANY AWARD 2022」において、「顧客感動賞」を受賞したのが医療法人社団マザー・キー ファミール産院グループだ。命が生まれる場所にある価値・感動・愛情とは、どのようなものだろうか。


命が生まれる場所で起こる顧客感動、
これこそが出生率を上げる要件となる


少子高齢化は、日本が抱える社会課題の最たるものだ。日本に横たわるさまざまな社会課題が少子高齢化を生み出し、また少子高齢化が日本のさまざまな社会課題のもとにもなっている。この複雑さを解きほぐし、希望の光を照らすことは可能なのか。もし、その実践者が日本にいるとしたら、その現場では何が起きているのか。

マザー・キー ファミール産院グループは、千葉県内で5つの産婦人科医院(館山市・君津市・千葉市にふたつ・市川市)に加え、産後ケアの専門施設(千葉市)を運営している。理事長を務める杉本雅樹は、産婦人科の仕事の本質・心髄は「慈愛である」と断言する。慈愛とは、わが子を愛するような慈しみの気持ちを指す。それに対して事業とは、利益を目的として営まれる経済活動を指す。この利益と慈愛という両極を成立させるためのキーワードとなったのが、「顧客感動」だった。そして、産婦人科医院で生み出される「顧客感動」は、少子高齢化という社会課題に対する希望の光にもなるものだった。

「私たちは、『しあわせなお産』のために存在しています。しかし、『しあわせなお産』をひとつの言葉に集約して定義することはできません。妊婦さんのそれぞれに『しあわせなお産』の形がありますから。それを妊婦さんと共に考え、共に歩み、共に喜びを分かち合うのが、私たちの仕事です。退院する際に『また来てね』と声をかけられるのは産院の特権ではないでしょうか。他の病院では笑顔で『また来てね』とは言えません」

「また来てね」と「また来たい」。この両者の想いは、出生率の上昇につながるものだ。実際に数字が動いている。ある年において(2014年)、千葉県の合計特殊出生率1位は、2005年にグループではじめて産院を置いた館山市、2位はふたつめを開院した君津市であった。この動向は偶然ではないだろう。長きにわたって日本全体で出生率が上がらない潮流にあるなか、さらにコロナ禍が婚姻数と出生数の下振れを招いた21年においても、ファミール産院はグループ全体で年間1,900分娩を超え、過去最高数を記録したという。世の中の流れとは明らかに違うことが、ファミール産院グループでは起きているのだ。

「『しあわせなお産』の定義はひとつに集約できませんが、『しあわせなお産』につながるいくつかの要件なら挙げることができます。それは、建物や食事を豪華にすることではありません。起こり得ることは包み隠さずにすべて伝えること。ネガティブなことが起きた場合でも隠しごとをしないで、すべてをオープンにすること。『出産は怖いものではない』と実感し、退院してもらうために、帝王切開や会陰切開を極力しないで自然な分娩にまかせ、創(きず)のないお産を目指すこと。陣痛が来てから出産するまでの間に産婦さんをひとりで放っておかず、助産師または看護師が必ずそばにいて不安を感じさせないこと。

妊娠期から産後まで『地域にいるお母さんを絶対にひとりにさせない』という精神を貫き、さまざまなサポートメニューを実施すること。いま、私たちのグループでは300人ほどのスタッフが働いています。『しあわせなお産』という理念に則って働くとはどういうことか。これを、さらにしっかりと浸透させていかなければなりません」

リーダーシップの基礎とは、組織が存在する意味を考え抜き、それを目に見える形で明確に定義し、組織に浸透させることだ。これは一般企業のみならず、産院においても変わることのない真理である。

「しあわせなお産」とその経験に伴う顧客感動は、「ふたりめを産みたい」「三人めを産みたい」という本人の想いに帰結し、これからはじめて出産する周囲の知り合いへのポジティブな口コミにもなって、この時代に新米ママへと歩み始める勇気につながっている。当然ながら、ファミール産院グループの分娩数が増えることで、幸せな家族が増加し、地域の活性化にも大きく貢献している。

「新たな命と出会う仕事をするなかでは、望ましくない結果が避けられないことも当然ながらあります。しかし、そのようなことが起きたとしても、その妊婦さんがまた次の恵まれた機会に私たちの産院を選んでくださることがあります」

企業と顧客の間に、これほどまでに強い信頼関係が結ばれる事例が他にあるだろうか。顧客満足を超え、顧客感動を超えて、自分たちだけが到達できる顧客との特別な関係性のなかで、ファミール産院グループは今日も大切な命と向き合っている。




杉本雅樹◎筑波大学医学部卒業。50代で開業するのが平均というなか、筑波大学附属病院などでの勤務を経て2005年、33歳で千葉県館山市にファミール産院を開院。後継者不足の診療所を引き継いで分院とするなど、現在ではグループ全体で5つの産院を運営。産後ケアの専門施設にも日本でいち早く取り組んできた。

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