ハリウッドにオールスター・キャストや大作志向の趨勢を呼び戻すきっかけともなった「大空港」(1970年)の続編で、豪華客船の沈没や超高層ビルの火災を描いたディザスター映画ブームの一翼を担った「エアポート’75」(1974年)である。
ロサンゼルス行きのボーイング747が上空で自家用機と接触事故を起こし、機長が重傷を負ったことでパイロットが不在となってしまう。やがて地上との交信も途絶え、ジャンボ機の命運は客室乗務員のチーフに託される。
機長の座席に座り、操縦桿を握る客室乗務員のチーフ役のカレン・ブラックは、ニューシネマ出身の個性派として知られる存在だった。その彼女が、迫り来る岩の壁を目の前にして、このまま行くと山嶺に激突というハラハラドキドキの緊迫感を、画面いっぱいの大写しとなる自身の表情で演じてみせた。
何度も観直した映画だが、見る度に全身が凍りついてしまうこのシーンの強烈さは到底忘れることができない。
デビュー作は乗客が眠る間に執筆
さて、今回ご紹介する「フォーリング−墜落−」の作者であるT・J・ニューマンの前職も、フライト・アテンダントだという。母や姉も飛行機に乗っていたという航空一家に育った彼女は、なんでも2021年に本作を上梓する直前まで、ヴァージン・アメリカやアラスカ航空に勤務していたそうだ。
プロフィールには、本作を乗客が眠る間にひそかに書いていたとあるが、執筆場所が空の上ならば、書き上げた物語も地上3万8000フィート(約1万1600メートル)の上空というデビュー作である。
コースタル航空で機長を務めるビル・ホフマンは、妻のキャリーと2人の子どもに囲まれた穏やかな生活を送っていたが、同僚のフライトを肩代わりしたことで、その朝、出掛けにキャリーと感情的なすれ違いを起こしていた。実はその日、リトルリーグの開幕戦に出場する息子のスコットを応援に行く約束をしていたのだ。
ビルは、家族ぐるみの友人でもある女性客室乗務員のジョーにそのことを愚痴りながら、中途半端な気持ちを引き摺ったままコックピットに入ると、陽気な副機長のベンと離陸の準備を始める。