「国会議員として働いているとき、気候変動について多くの場で話題になったが『私たちが何をすべきか』という話は、決まって『それをやるべきはほかの誰か』となった。とにかく中国が多くのCO2を排出しているので、フィンランドが何をやっても意味がない、という話になりがちだった」。
誰かに責任転嫁しているような気分になった、と気候変動NPO「Compensate」共同創設者のアンテロ・ヴァルティア(Antero Vartia)(41)は言う。2018年に創設されたCompensateは、企業や個人のCO2排出量をテクノロジーとデータで「見える化」し、行動につなげてもらう活動をしている。「気候変動は、構造的な課題だ。私たちがCO2を多く排出しているから起こるのではない。排出した後、そのまま空気中に放置し、片付けないからだ」。
植林、農業技術の革新、海藻の養殖、バイオ炭など、やるべきことはわかっているのに「誰に責任があり、勘定を払うのか」が曖昧な点に問題があると指摘する。
ヴァルティアのこれまでのキャリアは一風変わっている。大学卒業後に、家族所有のアパートを担保に資金を捻出し、ヘルシンキの海が見える一等地にカフェ(MATTOLAITURI)を開設、有名TV番組のホストを経て、2015年フィンランド議会選挙に「緑の党」から出馬し当選。その合間に友人とサウナとレストランの複合施設(Loyly) もオープンさせている。
マネジメントに興味はない。人々と自然が敬意をもちながら共存し、時間を楽しむ場所をつくることに興味があるという。「誰かに雇われるのは向いていない、と昔から分かっていた」。自身の人生にリスクを負い、責任をもたないと面白くない。だからこそ、そのために何が必要かを彼はよく知っている。
それは、己を知り、恐れを克服することだ。ヴァルティアの最大の恐れは「自由を失うこと」だ。リモートワークが可能な環境を利用し、ひとりになるために6カ月間、欧州と中南米を旅した。目下彼の関心を奪うウクライナ情勢も念頭にヴァルティアは言う。「僕にとって自由は最も大切な価値観だ。他人を傷つけない限り、そして自分の行動に責任をもつ限り、人間は本来的に自由であるべきだ」。