──宇沢の晩年の日本での仕事、「社会的共通資本」があらためて注目されている。
経済格差の拡大が世界的課題となるなかでコロナ禍、地球温暖化が深刻化し、さらにロシアのウクライナ侵攻で戦争までが起きた。宇沢は広い意味での「環境」を分析するために半世紀も前に「社会的共通資本」の概念を導入したが、その目的は資本主義が招く危機を考察することだった。現在、米国財界でも公益資本主義ということが言われ、岸田政権も「新しい資本主義」と言いはじめた。なぜ宇沢が「社会的共通資本」に行き着いたのか。まずはその思想背景や人生を知ってもらえるとうれしい。
佐々木実◎1966年、大阪生まれ。大阪大学経済学部卒業後、日本経済新聞社入社。95年に退社しフリーランスのジャーナリストに。『市場と権力「改革」に憑かれた経済学者の肖像』(講談社、2013年)で大宅壮一ノンフィクション賞。