「個」の力を結集し、新しい価値創造へつなげたいと、企業は画一的なハイスペック人材の採用から、多様的な「個」を求めるダイバーシティ採用へ変化し、「個性」を事業戦略に生かそうと奔走している。だが、「個性」が十分に発揮されている企業は多くはない。
個人として「個性」を模索する、組織として「個性との関係性」を模索する。際立った「個性」をもった人がどのように組織や社会とつながるか、世界で活躍する4人に聞くなかで、多様な答えが見えてくるのではないか。
哲学や理念は身体性でも伝える シャネルの神髄とは
東風上尚江 5.cinq.代表
スタッフさえも知らない「ラボラトリー」と呼ばれる場所が仏高級ブランド、シャネルにはある。創始者であるココ・シャネルが最初につくったリップケースや、図案、オートクチュールの生地など、クリエイションにかかわったすべてがアーカイブされている「シャネル博物館」のような場所だ。
木目調の図書館のようなこの部屋は、ラボの館長が管理し、限られた人しか利用できないという。その部屋に立ち寄っては、創始者の哲学を確かめていた人物が2人いる。1971年のココ・シャネルの死後、低迷していたシャネルを現代的なセンスで見事によみがえらせた、モード界の帝王カール・ラガーフェルド。ココ・シャネル本人が採用したという「メイク界の神」、ドミニク・モンクルトワだ。
「シャネルっぽさ、シャネルの世界観というものに正解はないと思う」。ドミニクが引退するまで、メイク関連のみならず、彼の手足、そして、目・耳となり、インスピレーションを与え続けた日本人女性、東風上尚江は言う。
東風上は、ロサンゼルスでメイクを学び、帰国した後、日本ロレアルに入社し、インターナショナルメイクアップアーティストとして活動。その後、シャネル パリ本社からヘッドハンティングされ、ドミニクの右腕、エグゼクティブメイクアップアーティストとして活動を開始した。
「シャネルの世界観はココ・シャネルしかもっていない。だから、シャネルらしさを探し続ける作業こそがアイデンティティ。毎回、オリジンに戻り、シャネルの原体験をもとに、皆で議論していくことで、その答えに近づいていくことができる」(東風上)