「ワイヤリング(配線)」がキーワード「未来の働き方」を体現する先駆者【後編】

イラスト=ムティ(フォリオアート)


近藤は、大学在学時の20歳のときに友人と起業した設計事務所が成功。その後、2つ目の会社を起業、20代半ばにして上野駅前に複合施設を建築するという数百億円規模の仕事を任されるようになった。しかし、「建物をつくる」という従来の価値観に疑問を抱きはじめ、建物をつくらないまちづくりがしたいと、渋谷の街全体を大学に見立てる「シブヤ大学」や「まちの保育園」に参画してきた。

その後、オランダ、アフリカ、南米へと拠点を広げ、すべての家から10時間以内で、ほぼすべての国に行けるようにした。「社会のソリューションを考えるとき、友達の顔が浮かぶと浮かばないのでは大きな違いがあると思っていて。だから、世界にリーチしやすい環境に身を置き、体感レベルでリサーチしている」

現在、近藤のもとには、開発途上国を中心に世界中から事業のプレゼンをしに来る起業家が後を絶たない。近藤は基本、プレゼンしてきた人には「全員にお金を出す」と決めている(事業が成功するための宿題を毎回出し、8割以上は脱落してしまうそうなのだが)。それはまるで「善意型資本主義」とも言えるアプローチだ。

近藤が一貫してつくりたいのは、「拡張家族」に見える。ひとりの絶対的な権力に頼るのではなく、また、個の自己責任ですべてを担うという行きすぎた個人主義でもなく、「コミュニティ」規模の拡張家族に依存しながら生きていく──そんな新しい資本主義の姿。人に依存して生きていく社会、という新しい豊かさの定義だ。

近藤が問う「人はどのように生きるのか」から、「働き方、組織のあり方」が見えてくるかもしれない。「個人と組織」、それぞれ単一名詞のようにとらえられがちだ。しかし、当然そうではない。それぞれがもつ端子たる接続面は多様で、それは時を経て変容もしていく。だからこそ、いま、最も相応な「配線先」を探し、つないでいく。それにより、個と組織はともに立ち、つながれたラインから、さらに新しい回路が広がる。

「新しい時代のルネッサンス」は、このかけ合わせで無限に広がっていく、「可能性にあふれている」時代の到来ではないか。

文=谷本有香

この記事は 「Forbes JAPAN No.092 2022年月4号(2022/2/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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