「ワイヤリング(配線)」がキーワード「未来の働き方」を体現する先駆者【後編】

イラスト=ムティ(フォリオアート)


東風上がシャネルの独特な文化に驚いたのは、入社直後からだ。入社後、1カ月間にわたり、フランスでのトレーニング参加が求められた。パリ市内の名所を一望できるホテル・ド・クリオンに滞在し、マンツーマンでシャネルの世界観を理解するという優雅な研修だ。

社員には戦力になってもらいたいからこそ、じっくりと時間をかけ、シャネルの哲学、世界観に浸ってもらうという。結局、東風上は、1年くらいにわたり、集中してシャネルの精神を学び続ける機会を得た。

「シャネルは、世界観を浸透させるトレーニングを徹底していた。ココ・シャネルがどこで何をしたのかをたどる。例えば、シャネルにゆかりのあるフランスの高級避暑地、ドーヴィルという街全体を使ってのチームビルディング。街中の至る所にシャネルに関する質問が隠されており、ゲームを早く解いたチームが優勝する。コミュニケーションとシャネルの文化を体得しながらのトレーニングによって、抽象的だったシャネルの世界観をそれぞれが理解を深めていく」

哲学や理念。それらは、時代や場所を超え、「言葉」だけで伝え続けるのは決して容易ではない。だからこそ、身体・精神を伴ったかたちで時間をかけてBack to the basicする。創始者が見、抱いた感情や世界観がビビッドにつながるように。

3カ国5拠点暮らし 問う「どう生きるのか」


近藤ナオ CENTER創業者

「人はどう生きるのか。いま、私が知りたい問いです」

アフリカ・タンザニアで資本主義の枠組みのなかで、幸せに暮らしていける「場所」の創設を目的とした「エコビレッジ」プロジェクトをリードする近藤ナオはそう語る。

近藤は2021年まで、日本、オランダ、タンザニアの3カ国5カ所を拠点に移動しながら暮らしていた。手がけている事業は世界で12にのぼり、不動産・コリビング運営、NFTアーティストマネジメント、フードデリバリー、オーガニック酪農、食用カタツムリの養殖などと幅広い。

しかし、現在は、最もやりたいことをしているという。それが「人はどう生きるのか」という問いの模索であり、冒頭のタンザニア・タンガにあるエコビレッジ・プロジェクトだ。そこではある実験的な試みをしているという「現地の人たちとともに、なんのインフラもない土地に、現地の生活をベースにさまざまなエッセンスを加えた新しい暮らしを実践し、見てもらう。

例えば、バナナの木と共存する水洗トイレや、ソーラーパネルで充電したワイヤレス電動工具を利用した現地素材だけでつくる建築物などだ。そして、現地の人や僕を含む世界中の人々にとって、何が『ちょうどいい暮らし』なのかを考えるきっかけになったらと」
次ページ > 「新しい時代のルネッサンス」

文=谷本有香

この記事は 「Forbes JAPAN No.092 2022年月4号(2022/2/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

連載

なぜ「働く」のか?

ForbesBrandVoice

人気記事