海外剣士たちは剣道を「自己研鑽」と捉え、自己向上のために取り組んでいるのです。私を含め、その真剣さに心を打たれる日本人は少なくありません。
「私生活を正す」と断言する若手トップ剣士
全日本剣道連盟は、剣道の理念に「人間形成」を掲げ、剣道の普及とは「稽古や試合を通じて、武士の精神を多くの人々に伝えること」と記しています。
2019年の関東学生剣道優勝大会で優勝した、当時筑波大学3年生の星子啓太選手に今後の展望を聞いた際、彼は「結果に甘んじず、私生活を正していきたいです」と語りました。まだ20歳そこそこの学生が浮かれもせずに礼儀正しく、「私生活を正す」と断言した姿に衝撃を受けました。
そこで、トップ剣士が受けてきた教育のなかに、海外剣士たちが魅力に感じる点があるのでは? と考え、全日本選手権で優勝経験を持つ松﨑賢士郎選手と星子選手に「恩師の教えで印象に残っていること」を聞きました。
星子選手が在籍していた九州学院では、普段の生活態度が試合などの「本番」に直結すると指導されているそうです。試合で良いパフォーマンスを発揮するために、食事、睡眠に気を配ること。そして、授業は試合と同じくらい大切な「本番」だから絶対に居眠りはせずにきちんと聴くこと。
同様の教えは、松﨑選手の出身高校である島原高校にもあるようです。
「島原高校は寮生活でした。初めて親元を離れての寮生活では、何でも自分でしなければなりません。恩師からは『優秀な選手の条件は自立していること』と教えられてきました。また、私の母校は『文武両道』を掲げていたため、剣道と同じくらい勉強も努力しました。やるもやらないも自分次第。日々の生活を含めて、どれだけ努力するかが自立につながると私は考えています」と松﨑選手は言います。
一瞬で勝負が決まるからこそ生まれる集中力
子供の頃に自閉症と診断されたオランダの剣道愛好家の女性は、自分に合うスポーツを探し、武道に到達。「剣道を始めてから人生が変わった、集中力がついた」と語ります。
「小さい頃、人の話も聞かずに走り回っているような子供でした」という星子選手も、「剣道を始めてから、集中してじっとしていることが苦ではなくなりました」と振り返ります。
「特に剣道は、打つか打たれるかの世界です。集中しないと打たれます。また、恩師からは『体力がなければ集中力もつかない』と教えられてきました。体力が増すにつれて集中力も上がったように感じます」
松﨑選手も「恩師がよく『気力は体力』と言っていました。試合に勝つためには気力が必要です。気力は体力からできるもの。私も体力がついていくにつれて、集中力も増したように感じます」と言います。