常に5年先を行く思考
──震災が起きてから事業を着想されたということ?
実は震災が起きる前から、社内では「クラウドサービスはやっておいたほうがいい」という声があり、色々と開発をしていました。とはいえ「Gmailを倒す武器を作るべき」と私が一人で勝手に作っていたのが実態で、「さすがにそれは大言壮語すぎる」と社内でも人気がないプロジェクトでした(笑)。
結果的にそこで培ったテクノロジーが、震災が起きたことによって違う形で活かされていきました。
──参入するタイミングの見極めは。
我々はBtoBビジネスをしていますが、お客様の働き方を変えるほどのパワーはありません。なので、それが変わるきっかけが生まれるタイミングを見据えてやるしかない。BtoB事業とはそういうものだと割り切っています。
クラウドサービス技術に関しても、創業して以来、多数の失敗をし、「自分たちの考えることは大体5年くらい早すぎる」と思っていました。そう割り切って開発を進めていました。
時間がかかるやり方ですが、逆に、いざ機が来たときにしっかりサービスをリリースすることができる。競合に先んじることができる利点があります。
──なかなか忍耐力のいる戦い方ですね。
大きな社会変革が、いくら外部環境任せだとはいえ、参入初期の頃に「イノベーター」や「アーリーアダプター」を見つけることは大切です。
一見「ポンコツ」に見えるような製品でも、その先にすごい未来があるかもしれない、と勝手に想像してくれるイノベータータイプのお客様が一定数います。
そういうタイプのお客様を見つけられるかは重要で、もし一人もいないなら仮説が間違っているのでしょう。反対に、みんなに需要があるような状態では参入が遅すぎます。
「誰も使いたくないわけじゃないけど、使いたい人はごく一部」という塩梅のもの、そして5年後には大きく広がると予想できる「テクノロジーの種」を見つけることが大切です。
小椋 一宏(おぐら かずひろ)◎1975年生まれ。HENNGE代表取締役社長兼CTO。一橋大学在学中の1996年に創業。一貫して技術部門のトップとして会社を牽引し、代表取締役社長とCTO(最高技術責任者)を兼任。2010年ごろからクラウドセキュリティサービス「HENNGE One」を立ち上げ。2019年10月には東証マザーズ市場上場を果たした。