海洋問題に取り組む世界のリーダーたちが、パラオに集結して誓ったこととは?

パラオ共和国で開催された「第7回Our Ocean Conference」の様子


そのなかで、日本政府としては官民合わせての35のコミットメントに総額約3.91億ドル(内閣府掲示では3.96億ドル、約500億円)相当の予算を発表した。

福島汚染水の安全性と透明性のある処置にも言及し、IUU漁業問題にG20やAPECを通しても取り組んでいること、開かれたインド太平洋を推進することを述べた。笹川平和財団などの民間と協力して海洋問題に取り組むというこの発表は、日本の海洋政策も官民連携の時代になってきたのだと思わせた。

今回の大会で特に注目されたのが内閣府の発表でも言及のあった笹川平和財団の活躍である。日本財団とその系列にある笹川平和財団には、元々パラオ政府に惜しみなく協力してきた歴史があるが、レメンゲサウ元大統領の政権時には2020年の大会開催に向けて会場となるはずだった野球場の整備に9億円を協賛、そのほかに約3億円の無償援助や海上保安艇の寄付なども行ってきた。

さらに今大会にはユースプログラムに世界各国から日本の学生7名を含む15名の若者の参加を支援した。岸田総理のビデオメッセージの用意に奔走したのも笹川平和財団の角南篤理事長だった。

笹川平和財団のチームは大会のかなり前から現地入りして、大会開催3日前にはウィップス大統領をはじめパラオ政府閣僚との私的な夕食会を主催し、翌日には大統領主催のリターンバンケットも開催された。さらに大統領を迎えての太平洋島嶼国ブルーエコノミー円卓会議も主催、太平洋諸国の大統領や大臣級による海洋経済成長についての議論を活発にリードした。

本会議のプレナリーセッションでは笹川平和財団海洋政策研究所の阪口秀所長が登壇、海洋問題に取り組む若者たちへの機会提供を訴えると満場の拍手を浴びた。また同研究所の小林正典主任研究員は海洋安全保障のプレナリーセッションでモデレーターを務めるなど、大きな存在感を示し、ケリー特使やウィップス大統領のスピーチのなかで笹川平和財団に対して何度も謝辞が述べられた。

このような国際会議や政策決定のシーンで民間がリーダーシップをとるのは欧米では珍しくない。強いNGOや財団が政策に徹底的に関わり、政府と協働していく文化がある。今大会でも欧米のNGOや財団がこぞってプレナリーに登壇したり、サイドイベントを主催したり、コミットメントを発表した。「リボルビングドア」と言われる官民間の人材移動や、高学歴の優秀な人材を抱えることができる民間の財力もこの潮流を下支えしている。

日本が直面するマグロ輸入問題


今大会では世界最大の海洋環境NGOであるオシアナ(Oceana)は、高い透明性の確保とテクノロジーの活用によるIUU漁業の撲滅、漁業における奴隷労働の撲滅などに加え、全ての魚種を早期に漁獲証明対象とすることを提言した。

アメリカとEUが気候変動と漁業問題、ブルーエコノミーの推進に強いメッセージを表明したことが印象深かった一方で、パラオ共和国のウィップス大統領は、魚の保全を図りながらも人々の暮らしの改善にもっと注力すべき、ナポレオンフィッシュを守るにはまず人間を守るべきだとして「People come first」を提唱した。
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文=井植美奈子

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