『世界標準の経営理論』の著者、早稲田大学大学院早稲田大学ビジネススクール教授・入山章栄。『ワールドクラスの経営』の著者、ボストンコンサルティンググループ(BCG)・パートナー&アソシエイトディレクター日置圭介。両氏は、グローバル経営の視点から、日本の人的資本経営、CHRO(最高人事責任者)の現在地をどのように見ているのか。
入山章栄(以下、入山):「CHROの時代」は間違いなくきている。現在、大企業などの社外取締役をやりながら、スタートアップのアドバイザーも務めているが、多くの組織がその重要性に気づき始めている。
CxO人材という観点では、CFO(最高財務責任者)人材の育成は進んでいる。海外投資家などとの対話が必要なIRや資金調達をはじめ、いわゆる「外圧」に晒されるからだ。一方、不足しているのがCDO(最高デジタル責任者)、CIO(最高情報責任者)、そしてCHROだ。
日置圭介(以下、日置):米国でも、先んじて役割が確立したのはCFOで、遅れてCHROの重要性が論じられてきた。日本でも同様の流れがきている。
入山:不足するCxO人材は、ひとりのプロフェッショナルが2、3社を担当する「兼業」になるだろう。CDO、CIOはすでにその波が来ている。例えば、長谷川秀樹は、コープさっぽろのCIOをはじめ複数社のCIOを兼任している。社長と同じ目線で会社をどうつくっていくかがわかるCIOが日本にはほぼいないため、必然的に「兼業」になっている。
デジタル人材の獲得競争から波及するこうした流れが、CHROでも同様に起きるだろう。経営者と同じ目線で、経営戦略と人材戦略を連動させ、根本の組織風土から変えていける人材は限られる。いまは外資系グローバル企業の人事経験者が代替しているかたちだ。
日置:「強いコーポレート」と「強いビジネス」の両輪が「強い経営」には必要だ。コーポレートの主要な機能としてファイナンスとHRがある。HRの難しさは、ファイナンスほどには人事領域に共通言語がないことだ。リーダー育成などの一部を除き、ローカルの現場イシューが多い。それらを統合的にとらえるフレーミングできるかが課題であり、CHRO人材育成の難しさの理由でもある。
入山:経営目線をもった人事担当役員がいないため、CEOが人事権をもってしまっている事例も多い。問題だが、それだけCHROが足りていない。ただ、この「CHROの時代」到来の背景には、日本企業が組織改革をしながら、組織と人の壁を崩して、本気でイノベーションを起こそうと動きだした証拠ともいえる。