入山:「流行のキーワード」に惑わされてはいけないが、日本企業に必要な言葉をあえてひとつ選ぶとしたら、「カルチャー」だ。日本では「うちのカルチャーとは違う」とイノベーションを阻害するために使われることが多いが、イノベーションを起こすために戦略的につくり込んでいくものだ。
カルチャーはなんとなく勝手にできるものではなく、「能動的につくること」が大事だ。日本企業には、グローバルで大事にすべきカルチャーを10個に絞って決めて、やり抜いてほしい。「カルチャーとは、行動」だ。米グーグル、米アマゾン・ドット・コムは、カルチャーのつくり込みを徹底することに執着して成功した会社だ。
日本発のグローバルスタートアップになるべく躍進しているソラコムは、強さの源泉が「カルチャー」だ。世界の優秀なテック人材は、自分が共感できるカルチャーの会社で働きたいという気持ちが強い。だからこそ、同社では、採用時に、自社のカルチャーを徹底的に説明し、共感した人材しか採用していない。
そのため、リテンション(離職防止)もできている。同社CEOの玉川憲をはじめ、共同創業者は全員AWS出身だ。米アマゾンを参考にしつつ、独自のカルチャーをつくっている。
日置:カルチャーを重要視する会社が増えれば、無理やり維持する終身雇用ではなく、自由な選択肢があるなかでの、結果的な長期雇用も広がっていくだろう。その関係性は、会社と働く人材にとっていちばん幸せなかたちではないか。
入山:そのためには、「カルチャーフィット」が不可欠だ。「明文化」と「納得感」が求められる。カルチャーをまず明文化する。明文化したら「確かに、うちのメンバーはそういう行動をする」という納得感があるかを確認する。組織の形式知と暗黙知が一体化する状態が大事だ。
現在、日本でも、大企業とスタートアップの30代の給与が逆転する現象が起きている。スタートアップへ人材が流れる動きが顕在化するだろう。「ぼんやり」人事をしていると、大量に離脱者が出るだろう。とはいえ、スタートアップを経験した人材が大企業に戻り、大企業を変革するという新たな流れを生むかもしれない。僕は最近、「経営幹部はスタートアップから採れ」という意見を言っている。
日置:CHROの適性のひとつとしてあげられる、「組織にいる価値や意味を感じられる『場』をつくり込める」ことに思いをはせられるか、も、大事な要素になる。
現在のこうした経営の流れは、現・国際大学学長、一橋大学名誉教授の伊丹敬之先生が提唱した、戦後日本の経済的成功の背景にあるとした、人を企業経営の中心におく「人本主義」の原理にもつながるのかもしれない。
その意味では、戦略や組織に人が従うこれまでとは異なり、戦略や組織が人に従う時代がきているとも言える。
入山章栄◎早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授。三菱総合研究所を経て、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院より博士号を取得。米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールアシスタントプロフェッサーを経て、19年より現職。
日置圭介◎ボストン コンサルティング グループ(BCG)パートナー&アソシエイトディレクター。PwC、IBM、デロイトを経て、2020年6月より現職。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科兼任講師。日本CFO協会主任研究委員、日本CHRO協会主任研究委員。
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