経済・社会

2022.03.31 17:00

やはり「拒否権」が焦点だった 国連の機能不全の原因と日本の苦闘

しかし、G4案に加えて、アフリカ連合(AU)諸国や、非常任理事国のみの拡大を主張するコンセンサス・グループ(UFC)も独自の案を推進。結局、G4案などは投票にまで至らず、2005年9月の第59回国連総会会期終了とともに廃案になった。当時の関係者らによれば、P5のうち、米英仏は日本の参加は拒まない姿勢を見せていた。

ただ、米国はインドやブラジルが新常任理事国になることに慎重な姿勢も見せていた。中国は日本の新常任理事国入りに反対していたが、ロシアはあいまいな姿勢だったという。最後は、当時の小泉純一郎首相が、親交の深いジョージ・W・ブッシュ米大統領に直談判すれば、何とかなるのではないかという声も出たが、結局、実現せずに終わった。

このように一時期盛り上がった国連改革だったが、G4案は拒否権について「新常任理事国は当面拒否権を行使しない」と主張。「新常任理事国にも拒否権を与える」としたAU案や、「全常任理事国が拒否権の行使を抑制する」としたUFC案と対照的な姿勢を示した。当時の関係者の1人は「拒否権に手をつければ、まとまるものもまとまらないという意識が働いたためだ」と語る。

あれから約20年。中国は日本を経済や軍事力で追い抜いた。ロシアはつい先日、日本に平和条約交渉の中断を宣告した。林外相が先日、アフリカ諸国に対して国連改革の必要性を訴えたが、ロシアに対する非難決議を採択した国連総会緊急特別会合で、棄権した35カ国の約半数はアフリカの国々だった。アフリカには、南アフリカやアンゴラなど、ロシアと親しい国も多い。

先日、クーデターが起きたマリには、ウクライナへの傭兵派遣で話題になったロシアの民間軍事会社ワグネルが傭兵を送り込んでいるという指摘も出ている。

政府関係者の1人は「時間が経てば経つほど、日本が望む国連改革の可能性はなくなっていく」と語る。日本は最近、「新常任理事国にも拒否権を与える」とするAU諸国の主張に反論せず、理解を示す立場に転換したという。それも、何とか国連改革の機運を再び盛り上げたいという願いから出た行動なのだろうが、木原氏の発言を受けて、さらにどうするつもりなのだろうか。

関係者のなかには「もう日本プロレスを脱退して新日本プロレスを作ったように、集団で国連を脱退して新しい組織を作るしかないですね」と悲しい愚痴をこぼす人までいる。でも、理想論や改革論を振りかざしても、既得権益にあぐらをかくP5や、米国とロシア(あるいは米国と中国)という大国間競争の間で洞が峠を決め込んでいるアフリカ諸国などは、同調しないだろう。後は、戦後秩序の崩壊を待つ以外、手はないのかもしれない。

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文=牧野愛博

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