話は08年にさかのぼる。リーマン・ショックで当初あすかホールディングス会長で発起人代表(共同創立者)の谷家衛と話していた10億単位の資金が白紙に。そこで谷家や当時の理事たちと考えたのが、「発起人を100人募り、皆に1000万円の寄付をお願いする」というコンセプトだった。
インテリジェンス(現・パーソルキャリア)創業メンバーで同校理事の島田亨は、小林がファウンダーの打診に来た日のことを鮮明に記憶している。
「『世界の平和と持続可能な未来のために、教育で世界中の人や文化を結びつけたい』と30分間、ブルドーザーのようにビジョンを語っていました。その話には夢がありましたし、この人の突破力と熱意があれば実現できると思えた」(島田)
小林が語る理念やビジョンに共感した成功者たちが次々と、ISAK(当時)という磁場に吸い寄せられていった。そして学校創設のプロセスにかかわるうちに、ISAKの活動が自分ごとになっていく。
ファウンダーのアドバイスを受けて、奨学金の原資を継続的に集める手段にはふるさと納税を活用した。前例がほぼないなか、1年にわたって軽井沢町と交渉。12年にISAKが対象として認められてからは、ふるさと納税を通じて21年度だけで3億円超の奨学金を集めている。
世界約80カ国からさまざまなバックグラウンドをもつ生徒たちが集う。経済状況にかかわらず共に学ぶことができるように、全生徒の約7割に返済不要の奨学金を給付している。
「自分を表現できる」
しかしなぜ、ファウンダーたちはここまでUWC ISAKに深くかかわるのか。その理由を谷家は「仲間、成長、自己表現という3つの幸せが得られるから」と説明する。
「UWC ISAKでは、志を同じくする仲間とのつながりを強く感じられる。子どもたちの成長や学校がよくなる過程をじかに感じられる喜びがある。そして、自分がこれまで培ってきたものを生かすことで、自分を表現できる」(谷家)
UWC ISAKでのフィランソロピー活動は、仲間とともに描く未来をつくる自己実現のプロセスであり、自己表現の場である。その思いは島田も同じだ。
「アントレプレナーとしての経験を、UWC ISAKの教育プログラムづくりに生かせていると思える」(島田)
一方、ゴールドマン・サックス証券グローバル金利トレーディング責任者で同校アドバイザーの居松秀浩は、「UWC ISAKほどサステナブルなプロジェクトはほかを探してもそうない」と話す。
「サステナブルではないフィランソロピー活動は、ただの自己満足。UWC ISAKには、教育を通じて生まれたコミュニティが次の人を育てるプロセスがある。しかも、一周どころか何周もしていく可能性を秘めている。生徒たちの存在は分断が進む世界に希望をもたらしてくれ、自分では見えない世界を彼らに教えてもらっている。与えるよりも、学ぶことのほうが多い」(居松)