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2022.03.21 19:00

3つの「ふく」で「ふくあじ」すべての男を童心に

放送作家・脚本家の小山薫堂が経営する会員制ビストロ「blank」では、今夜も新しい料理が生まれ、あの人の物語が紡がれる……。連載第19回。


東京・浜松町駅から徒歩3分の裏路地に、高齢のご夫婦が営む「福内商店」というコロッケ屋がある(現在は臨時休業中)。もとは精肉店だったのだが、コロッケの評判がよくて、コロッケ専門店になったそうだ。

僕が初めて食べたのは10年以上も前になるが、本当にここの「口福(こうふく)コロッケ」は旨くて、飽きない。1パック10個入り1296円で販売され、「170°Cの油でパン粉を軽く押し付けてから揚げる」というアドバイスに忠実に従って揚げると、外はカリッ、中はトロッ、旨味がギュギュッと詰まった、まさしく幸福(こうふく)の味がする。

旨いコロッケはすべての男を童心に返す力がある。blankでも男たちはコロッケに夢中だ。会食ではコロッケなんて出ないですもんね。

さて、コロッケといえば、じゃがいもだ。

2018年11月、北海道大樹町芽武にサステナブル住宅による宿泊施設「メムアースホテル」がオープンした。もともと競走馬の育成牧場で、当時の厩舎や放牧地をそのまま活用し、現在はホテルの収益の一部で馬と人間がともに暮らせる場所を目指している。そこにじゃがいもをたくさん持参して僕らを待っていたのが、「尾藤農産」の尾藤光一さんだった。

農業従事者というよりは、芸術・文化系の仕事をしているような雰囲気の尾藤さんは、十勝平野の120ヘクタールという広大な農地で小麦、じゃがいも、大豆、長いも、そばなどを生産している。じゃがいもだけでも年間1000トンを産出し、うち600トンをカルビーへ供給しているとか。

しかも、尾藤さんは変わったじゃがいももつくっている。その名も「雪室熟成じゃがいも」。倉庫に雪があることで湿度と温度が保たれ、1〜2年熟成させるとしっとり甘くなった食感を味わえる。東京・大阪を中心に高級レストランにも卸しているという名産だ。

先日も「北あかり」の2019年産(2年熟成)と2020年産(1年熟成)を送っていただいた。僕はこれらをシンプルに鉄板で焼いて、塩をふりかけ、ワインの垂直テイスティングのごとく食べ比べた。甘味も旨味も、熟成の進んだほうが増していることがはっきりとわかった。
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写真=金 洋秀

この記事は 「Forbes JAPAN No.091 2022年月3号(2022/1/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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