マクラーレン765LTは最新のLTモデルで、シリーズとしては675LT、600LTに続く3作目にあたる。そのコンバーティブル版が765LTスパイダー。どのようなコンセプトで開発されたのか? チーフエンジニアのジェイムズ・ワーナーに質問してみた。
James Warner
マクラーレン オートモーティブ チーフエンジニア。2008年ケンブリッジ大学卒。同年マクラーレン オートモーティブ入社。マクラーレン620Rおよび、765LTの開発責任者を務める。
「もともと優れたパフォーマンスを備えているマクラーレンのロードカーをさらに改良したのがLTモデルです。765LTの場合、720Sをベースに、サスペンションはハードなコーナリングにも対応できるようにチューニングしなおし、エンジンは最高出力を720psから765psに引き上げ、エアロダイナミクス面では空気抵抗を増やさないように配慮しつつもダウンフォースを25%増加させました。また、ベースとなった720Sより80kgも軽量に仕上げました」
なぜ、このようなモディファイが実施されたかといえば、スポーツドライビングを純粋に楽しむため。とりわけサーキット走行で求められる性能を重視したのが765LTを含むLTシリーズの特徴だ。実は、スーパースポーツカー・オーナーがサーキット走行を楽しむ比率は次第に増えているのだが、その最大の理由は、公道ではとてもそのポテンシャルを発揮できない点にある。意外にも思われるかもしれないが、この点、サーキットは安全設備が充実しているので安心。また、ピュアなドライビングフィールが得られるマクラーレンの場合、サーキット志向のオーナーが他ブランドより多いとされている点も、LTシリーズ誕生の理由と言えるだろう。
だからといってサーキット走行だけのために開発されたモデルではない点もLTシリーズの特徴のひとつ。
「ドライバーに心地いい刺激を与えることを目指した、といってもいいでしょう。ベースの720Sに比べるとサーキット走行により比重を置いていますが、むしろ開発の過程では、公道向けのチューニングにより長い時間を費やしたくらいです」
もうひとつ、765LTで印象的だったのが、エンジンの吹き上がりが鋭いこと。とりわけ、エンジン回転数が6000rpmを超えるようなトップエンドでは一段と力強さが増し、8000rpm弱まで一瞬で吹き上がってしまう。
「特に高回転域で、ドライバーが心地いい刺激を味わえるようにしました。きっと、多くの方々が高回転域をできるだけ長く使いたいと思うことでしょう。しかも、私たちはエンジン音にも配慮しました。それは、720Sよりも高音成分を強調したもので、生き生きとしてエキサイティングなサウンドです」
765LTがとりわけトップエンドでパワフルに感じられる秘密が、もうひとつある。720Sよりも12%ほどギアボックスのギア比を下げたのである。こうすると、同じ車速で走るにはより高いエンジン回転数が必要になるものの、トップエンドでの加速がよ り鋭くなる。「高回転域でパワフルなので、サーキット走行ではより正確にアクセルペダルをコントロールする必要があります」