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2022.03.20 16:00

765馬力のハイパースポーツカー「マクラーレン」開発のコンセプトを探る


765LTはサーキットで時に気むずかしい側面を見せた。タイヤが滑り出さない範囲でいえば、ステアリングからさまざまなインフォメーションが伝わってくるほか、リアタイヤもしっかり踏ん張ってくれるので操りやすく、安心感が強い。一方で、タイヤのグリップが限界を迎える領域では、720S以上に繊細なアクセルコントロールが必要になるが、これを習得するのがまた楽しい。しかも、マクラーレンの電子制御システムが、テールスライドしそうになった765LTを見事に立て直してくれるので、安心して練習できるはず。サーキットでのトレーニング用として765LTはうってつけの練習台だ。

サーキット専用のレースカー、720S GT3Xも強烈




765LTが公道用とサーキット用の中間的性格だとすれば、純粋なサーキット走行用に仕立てられた市販車が720S GT3X。

そのベースとなったのは、市販レーシングカーである720S GT3。世界中のスポーツカーメーカーがこの“GT3規定”に従ったレーシングカーを製作し、各地で開催されるレースに挑戦している。

もっとも、スポーツカーの性能はメーカーによってマチマチ。そこでGT3レースでは、各車両の性能を一定の範囲内に収めるための性能調整が実施されている。720S GT3の場合、最高出力を720psから550psまで抑え。車重も100kgほど重くされている。つまり、性能が低く抑制されているのだ。

ただし、レースに出場するためではなく、サーキット走行を楽しむために生まれた720S GT3Xに、わざわざ遅いマシンと足並みを揃える必要はない。性能調整で低く抑えつけられていたエンジンパワーと車重はオリジナルの水準まで戻されることになった。一方で、サスペンションやエアロダイナミクスはレーシングカーそのまま。つまり、「レーシングカーから生まれて、レーシングカーより速いマシン」が720S GT3Xなのである。

そんな手強い相手を私が存分に振り回せるはずもなく、765LTと同じナヴァラ・サーキットでの試乗は半ばおっかなびっくり。純レース用のタイヤが生み出すグリップ力は強烈で、多少頑張った程度ではビクともしない。これにはレース用エアロダイナミクスの効果も強く影響しているはずだ。

しかも、スパルタン極まりないコクピットでは、レーシングカーらしいダイレクトな感触を満喫できる。ただし、もともとGT3車両は、プロドライバーではなくジェントルマンドライバー向けに開発されており、ドライビングエラーに対しても思いのほか寛容。720S GT3Xで練習を積み重ねれば、プロドライバー並みのスキルが身につくだろう。

Text by Tatsuya Otani

この記事は 「Forbes JAPAN No.090 2022年2月号(2021/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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