第一回は、2021年度グッドデザイン大賞を受賞した分身ロボットカフェに注目。OriHimeを活用することで遠隔就労・来店を可能にしたこのカフェは「超高齢化社会をどう豊かに生きるのか」という課題への一つのアプローチを提示している。
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応募対象は、製品・建築・アプリケーション・コンテンツ・サービス・システムなど、形のあるもの、無いものを問わず、あらゆる“デザイン”されたもの。2022年度の応募受付期間は、4月1日(金)から5月25日(水)13:00まで。
2021年度のグッドデザイン大賞は、遠隔就労・来店が可能な分身ロボットカフェが受賞した。外出困難者がパイロットとして分身ロボットを遠隔操作し、接客するという画期的なカフェだ。老若男女・障害の有無を問わず、すべての人が生涯を通して社会とかかわり続けるための仕組みとしての実験場でもある。我々は、超高齢化社会をどう豊かに生きるのか。プロジェクトの狙いや目指す世界について、プロデューサーである吉藤オリィと、店舗デザインを担当した親松実が語る。
OriHimeはいかにカフェへと進化したのか
吉藤オリィ(以下、吉藤):私は子どものころ、体が弱かったことをきっかけに学校を休むようになって、不登校・ひきこもりとなり、クラスのお楽しみ会にも遠足にも参加できなかった。右手をけがしても左手が使えるし、右目に眼帯をつけても左目で物が見えるけれど、体自体がメンテナンスに入ると何もできなくなってしまう。だから、小学生のときから、もうひとつ体が欲しいと思っていました。その後、インターネットが浸透して、インターネットとロボティクスを組み合わせれば、体を運べないときに心を運ぶ車いすのようなものがつくれるかもしれない、と考えたのがOriHime開発のきっかけです。
「孤独の解消」というのは難しい。例えば、障害があったり、寝たきりの人は何かしたくても「君は生きているだけで価値がある」と言われたりして、もちろんそれも正しいけれど、人は、ただ「いていいよ」と言われても、そこにはいられない。理由があることで、居場所ができると思うのです。であれば、理由をつくればいい。
ただ、人の関係性というのは、必要と必要の間の不必要な時間に構築される。例えば、企業を訪れて担当者と会議室まで歩く間の雑談から面白いことが始まったりする。学校でも、授業だけでなく休み時間にこそ人は磨かれるし、関係性が生まれる。では、関係性をデザインするテレワークってなんだろう、というところから、この分身ロボットカフェにつながりました。
親松実(以下、親松):私は元々OriHimeのことも知っていたので、プロジェクトへの参加にはとても興奮しました。店舗としてどうやってかたちにしていくか、丁寧にヒアリングさせてもらい、オリィさんの考えにとても共鳴しました。いかにも未来のロボットがいそうな銀色とブルーのSFチックな内装はやめてくださいというオーダーがありましたよね。
吉藤:銀色とブルーって、あまり居心地がよくなさそうだから。未来人にとってはいいかもしれないけど、私たちは現代人なので。
いまは便利な時代で、AIでほとんどのことができて、人を介さずとも物が買えるし、生きてもいける。でも、たまたまバーで隣の席で飲んでいた人と意気投合するような、偶発的なことってすごく価値があるわけです。あらゆることが合理的になっていくなか、将来、私たちの体が動かなくなったときに、偶発的なものを意識的に発生できるような状況がきっと必要になる。一緒に仕事したり、必要とされるからこそ生まれる人と人との間の余地。そのバランスを考えた生き方を理想論ではなくかたちにできないかと考えたときに、このカフェになった。人生に必要なのは余白だと思うけれど、役割も必要だし、その場にいる理由と余白のデザインというものをつくりたかったんです。
親松:インテリアでもできるだけ余白をつくってくださいと言われましたよね。だから、わざと天井を張らなかったり、壁もない。オリィさんの構想は、今後も続くのでバージョンアップすることを想定している。私自身もすごく刺激を受けました。
誰もが寝たきりになる時代に必要なのは
吉藤:将来、寝たきりになったときに働きたいと思える職場であるか、というのがあります。いま健康寿命は70歳で、平均寿命が80歳。老後に健康ではない期間が約10年あるわけですが、皆その現実を見ようとしないし、考えていない。世の中は体の動く健康な人が暮らしやすいようにデザインされているけれど、これからの超高齢化時代に本当にそれでいいのか。将来、体が動かなくなったときに、自分は人工知能の友達を家に置くのか、VR空間にコーヒーを飲みに行くのか。そうやって考えると、少なくともいまの私たちが帰りたい場所はリアルであり、リアルの人に必要とされたいのではないか。
いま、カフェで60〜70人が働いていますが、皆さん寝たきりの先輩です。みんな、働きたいし、次世代に同じ苦しさを味わわせたくない。寝たきりの苦しさを当事者としていちばん知っている彼らが、どうすれば障害のある人が自分らしく生きられるか、生きられる場をつくることができるか、それを研究する仲間としてパイロットになってくれている。彼らと意見交換するなかでいろんなアイデアが出てきますが、このカフェはアイデアを実現できる余地のある空間だとみんながいう。店で見ていると、パイロットがお客さんから注文を取った後、そのまま残って会話を続けている。仲よくなって、お客さんもそれまで知らなかった難病のこととか、障害のことを当事者から聞くことができるわけです。
親松:働く人もですが、お客さんにもいろんな人がやって来ます。どんな障害のある人にも快適に過ごしてもらえるようなインテリアとバリアフリーは特に意識しました。目指したのは、自然で心地のいい空間。ロボットを見せるのではなくて、ある空間にたまたまロボットがいる。人間とアバターが自然に共存しているという空間をつくってくださいと言われました。オリィさん自身も参加して、素材を選んだりしましたよね。白いロボットが映えるように、店内はあえてダークトーンにしたりとか。緑とアースカラーは屋久島のイメージです。
吉藤:ただ、このカフェにはちょっと課題があって、パイロットたちの控室がないんです。そこで、いまここと同じカフェをバーチャル空間にもつくって、コミュニケーションできるメタバースを構築、控室として活用してもらおうとしています。将来、この控室でパイロット同士のケンカや、よきコラボが起きたりするかもしれません(笑)。
考えが認められ、受け入れられたことを実感
吉藤:OriHime自体は10年前からありますが、単体ではなかなか理解されなかった。2021年に応募したのは、「孤独が解消されるデザイン」が、きちんと人に伝わるかたちになったところで見てもらいたかったから。大賞をとったことで、私たちの考えが認められ、受け入れられたことが実感できました。それがとてもうれしかったです。評価されたことはありがたいですが、分身ロボットカフェはまだ実験段階であってゴールではありません。止まらずにこれからも進化し続けていきたいと思っています。
親松 実◎オヤマツデザインスタジオ代表取締役、デザイナー、建築士。国内外の施設、店舗、住宅の設計とインテリアデザインを幅広く手がける。分身ロボットカフェのデザインでは、当たり前にすべての人が共存する空間を目指したという。
吉藤オリィ◎オリィ研究所代表取締役所長。自身の不登校の体験をもとに、対孤独用分身コミュニケーションロボット「OriHime」を開発。オリィ研究所を設立。「ベッドの上にいながら、会いたい人と会い、社会に参加できる未来の実現」を目指している。2016年、Forbes Asia 30 Under 30 Industry, Manufacturing & Energy部門選出。
グッドデザイン賞とは?
グッドデザイン賞は、1957年から続く日本を代表する世界的なデザイン賞として、毎年国内外の企業や団体、デザイナーなどが多数応募し、これまでに多くの優れたデザインが受賞してきた。2021年度は、前年度より1,000件以上も応募が増加して過去最多の5,835件にのぼり、受賞もこれまでで最も多い1,608件となった。応募対象は、製品・建築・アプリケーション・コンテンツ・サービス・システムなど、形のあるもの、無いものを問わず、あらゆる“デザイン”されたもの。
2022年度の応募受付期間は、4月1日(金)から5月25日(水)13:00まで。
>>GOOD DESIGN AWARD 2022 ご応募受付中<<
応募対象:商品・建築・アプリケーション・ソフトウェア・コンテンツ・プロジェクト・サービス・システムなど。⽇本国内外、⼀般⽤/業務⽤は問わない。
応募条件:2022年10⽉7⽇(金)に受賞発表が可能なこと。2023年3⽉31⽇(⾦)までに購入または利⽤が可能なこと。
応募資格:応募対象の事業主体者、およびデザイン事業者。
応募費用:審査費、出展費など段階に応じた費⽤が発⽣する。
応募⽅法:グッドデザイン賞ウェブサイト(https://www.g-mark.org)の応募専⽤ページで、5⽉25⽇(⽔)13時までに登録。
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