Forbes JAPAN 2016年6月号掲載
創業者が6年前、Forbes JAPANに予言したピクスアートの未来
本誌は日本に進出したばかりのピクスアートを「大人には理解できない画像アプリの黒船」として紹介した。「新しい画像アプリが今必要かと聞かれたら、世間の大人の大半は『要らない』と答えるでしょう。けれど、一見飽和したように見える市場でも、優れたプロダクトを投入し、適切なマーケティングを行えばナンバーワンになれるのです」と担当者は語っていた。
きっとうまくいかない──。世間の大半の人々は、競合ひしめく市場に新たなアイデアで乗り込む企業を見るたび、そう思いがちだ。しかし、優れたスタートアップや起業家は、そんな予想を小気味よく裏切ってくれる。
今から約6年前、日本に乗り込んだ画像編集アプリ「ピクスアート」を取材した筆者は今、そんなことを考えている。インスタグラムやLINEカメラが絶大な支持を集める市場に“黒船”として現れたこのアプリは当時、若い女性の支持を集めていたものの、今ほどのレベルに成長するとは思わなかった。その最大の原因は、モバイルへの移行が生み出す市場が想像を超える規模の大きさだったからだ。
あらゆるビジネスや表現活動の基盤がスマホに移るなか、画像アプリは単なる趣味のツールの枠を超え、“プロシューマー”と呼ばれるクリエイターや起業家が使うツールに進化。その流れをつかんだピクスアートは月間アクティブユーザーを当時の倍の1億5000万人に伸ばし、ユニコーンに成長した。
創業者が、旧ソ連の崩壊の現場に居合わせた東欧のアルメニア出身というのも興味深い。共産主義から資本主義への激烈な変化を目撃した人たちが、常識にとらわれない発想としたたかさで時代の最前線に立っている。
これからの世界で本当に重要な変化を起こす起業家は今、シリコンバレー以外の場所にいるのかもしれない。
ピクスアート◎2011年創業の写真・動画編集アプリ。創業者はホバナス・アボヤン。世界180カ国で延べ10億回以上もダウンロードされ、月間アクティブユーザー数は1億5000万人に達した。インスタグラムにも出資したセコイア・キャピタルや、ソフトバンクなどから1億3000万ドルを調達。ユニコーンの仲間入りを果たしている。
ホバナス・アボヤン◎写真・動画編集アプリ「ピクスアート」創業者兼CEO。アルメニア生まれの連続起業家。ネットに投稿した絵を中傷された娘を励まそうと、2011年に同アプリを開発。コンピュータ科学のレベルの高さに定評があった母国に開発拠点を置くことで、優秀なエンジニアを比較的安価に雇いつつ、後進の育成に努めている。