創業者にして、開発者。当然ながら会社の顔でもあるわけですが、新しい製品のプロモーションのために来日、私がインタビューをしたときに受け取った名刺の肩書きには、「チーフエンジニア」とのみ書かれていました。まだまだ開発の最前線にいたのです。
「何より重要なのは、私たちがつくる製品が、優れた機能を持ち、ユーザーに使い続けてもらえること。そのために時間と労力をかけなければいけません。実のところ、それに比べれば、経営はそれほど重要ではないのです(笑)。私自身が経営よりも新しいモノをつくるほうが好きだということもありますけどね」
インタビューをしたのは、掃除機の小型化を実現させた「ボールテクノロジー」を世に送り出したタイミングでした。3年にわたって改良に取り組んでいたと語っていました。
「こんなものがあればと思う機能を盛り込むことを常に考えています。例えば、掃除機は方向転換の際のコントロールが難しい。掃除機を引いたまま部屋から廊下に出ると、ひっくり返ってしまう場合もあります。そこで、360度自在に方向転換ができないかと考えました。結果として生まれたのが、ボールテクノロジーです。操作性の向上だけでなく、騒音の軽減や振動を少なくすることにも成功しました」
開発では、実験のための設備から自社で製作すると語っていました。完成までにつくった試作品も数百台にのぼります。
「うまくいかないことばかりなんです。でも、だからこそ、どうすれば改良できるかを考える。思えば、私の人生は失敗の連続でした。でも、失敗というのは面白くて、失敗があるから考える。そこから学ぶことができるのです」
成功からは人は学べないと言い切るダイソンさん。こう続けました。
「むしろ、たまに成功すると、後で必ず失敗が待ち構えていたりする(笑)。私は、不可能を可能にしたいのです。だから、不可能といわれることを常に探している。そうすると、失敗はもう当たり前なのです」
ダイソン社創業者 ジェームズ・ダイソン Sylvain Gabour / Getty Images
自国のモノづくりに警鐘を
そんなダイソンさんが50代になってから、事業以外に力を入れてきたことがあります。それが、次代の才能を育てる活動です。
2002年にジェームズ・ダイソン財団を設立。デザインやテクノロジー、エンジニアリングの教育活動への支援を行っています。背景にあるのは、自国のモノづくりへの強い危機感、こんな警鐘を鳴らします。
「イギリスの若い人が、エンジニアリングや科学に興味を持たなくなっている。このことを、私はすごく心配しています。中国やインドでは、億の単位でエンジニアが次々に輩出されているのにです」
自らが若い頃からモノづくりに携わってきたという自負からでしょうか、次のような展望も語ります。