山場を迎える「札幌冬季オリンピック招致」、今度こそ押さえるべき是非のポイント


必要とされる、経済効果への正しい視点と五輪レガシーのアクティベーション


メガスポーツイベント招致時に活発に議論される「経済効果」は、大会前後数年間の生産波及効果を示す<短期的>なもので、本当に効果があったかどうかを正確に検証することは困難である。

また、一般的な経済効果はイベントがもたらす便益の総体(グロス・ベネフィット)で語られるが、真水の経済効果はコストを差し引いた正味便益(ネット・ベネフィット)で示されなくてはならず、ともすれば数字の大きさだけが独り歩きする危険性を伴っている。

さらに、開催決定直後からスタートする都市整備事業について、この期間の公共投資はGDPを押し上げる大きな経済効果を生むが、これはスポーツイベントそのものとは無関係な公共事業で、何れ行われるべき公共事業の前倒しと考えてもよい。

オリンピックに過大な期待を寄せ、実証不可能な巨大な経済効果を信じて、必要以上に豪華な施設建設や過剰な公共事業を行うと、それが負の遺産として長期間にわたって都市財政を苦しめることになる。


Photo by Massimo Rumi/Future Publishing via Getty Images

もちろん、身の丈に合った整備事業には、大会後の経済効果も期待できる。

残された施設や設備といった<中期的>なもの、その有効活用から生み出され、引き継がれていく<長期的>なもので、「ヘリテージ(継承)」という概念が適用できる。

レガシーが大会後に残された遺産としての五輪施設だとすれば、ヘリテージは残された五輪施設に活力を与える「賦活(ふかつ)化」、つまり「アクティベーション」を意味する。

東京2020大会の場合は、会場として使用した12の都立施設を対象に令和5年度(2023年度)から新たに指定管理者を選定する予定であり、まさにこの重要な五輪レガシーのアクティベーションの段階に差し掛かっている。

「負のレガシー」と批判された、長野冬季五輪の実態


1998年長野冬季五輪のスピードスケート競技会場として建設されたエムウェーブ
Photo by Matt Roberts - International Skating Union/International Skating Union via Getty Images

1998年の長野冬季五輪では、複数の大型施設がレガシーとして残されたが、スピードスケート競技会場として建設されたエムウェーブは、長野県におけるスケート文化の定着に役立っており、2018年の平昌五輪で金メダルを獲得した小平奈緒さんのような地元選手が生まれている。

また、長野五輪に向けて整備された、長野市から白馬・大町へ向かう主要幹線道路は、通称「オリンピック道路」と呼ばれ、成田空港に到着するインバンドスキー客の輸送に大いに役立っているが、その背景には、冬季五輪によって世界的に浸透した「NAGANO」という都市の知名度がある。

短期的には「負の遺産」を残したと批判された長野五輪だが、五輪施設というレガシーを賦活化し、中長期的な恩恵を被っているのが長野の実態ではないだろうか。

札幌冬季オリンピック・パラリンピック招致においても、このような<短期・中期・長期>の視点から、是非を丁寧に論じる必要がある。

編集=宇藤智子

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