米国では物価上昇率が1982年以来となる7%に達し、ニールセンIQの調べによると食肉価格はこの1カ月だけで13%跳ね上がった。こうした状況を背景に、タイソン・フーズの同期の売上高は129億ドル(約1兆4900億円)と前年同期の倍近くに急増し、1株利益は48%増えた。
飼料や輸送のコストも大幅にかさんでいるが、営業利益率は11%を達成。パンデミック前の2019年の6.53%、10年前の4%から大幅に向上している。これはタイソンが経費を切り詰め、利益を増やしているということだ。直近四半期の決算についてゴールドマン・サックスのアナリスト、アダム・サミュエルソンは「利益率がどの部門でも良くなった」とコメントしている。
好業績を受けて7日の米株式市場でタイソンの株価は12%超急伸した。これにともないジョン・タイソン会長の純資産額は3億ドル(約350億円)増え、33億ドル(約3800億円)に膨らんだ。
一方、ジョー・バイデン政権や独立系の生産者は、タイソンなど食肉加工大手による「パンデミック・プロフィティリング(コロナ禍につけこんで暴利をむさぼること)」を指弾してきた。スーパーなどへの販売価格を過去に例のないレベルで引き上げながら、家畜を生産する農家への支払いは過去最低に近い水準にとどまっているからだ。
生産者への支払額をめぐって20年前にタイソンに対する集団訴訟を起こしたこともある畜産業者のマイク・カリクレートは、「彼らは(コロナ禍に)つけ込んでいる。簡単に言えば価格を管理しているということだ。やり過ぎて馬脚をあらわすこともあり、今回もその一例だ」と話す。
米農務省によると1990年時点では、消費者が牛肉に支払った1ドルのうち59セントを生産者、8セントを加工業者、33セントを小売業者が得ていた。だが2020年には、生産者の取り分が37セントと40%近く減る一方、タイソンなどの加工業者の取り分は18セント、小売業者の取り分は44セントに増えている。鶏肉や豚肉でも同様の傾向がみられる。
タイソンなどが価格支配力を強めてきた背景には、米食肉業界の寡占化がある。それが最も進んでいるのが牛肉で、大手4社で国内市場の85%を占めている。豚肉でも4社で70%、鶏肉でも4社で54%のシェアを握っている。
こうしたなか、価格操作や談合を行ったとして食肉大手に対する集団訴訟も相次いでいる。タイソンは2021年1月、鶏肉をめぐる集団訴訟で2億2150万ドル(約259億円)の支払いに応じて和解したが、不正行為は認めていない。
タイソンの広報担当者は、市場での力を利用していることを否定しており、好業績については業務執行の改善や、食肉需要の高まりをとらえた結果だと説明している。