SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みで求められているのは気候変動対策だけでない。企業はガバナンス(企業統治)強化の観点からコンプライアンスの徹底も進める。生命保険会社で働く50代のAさんはコンプライアンスのエキスパート。大学卒業後、国内や外資系の金融機関を渡り歩いて昨年、現在の会社へ転職した。
前の職場での勤務時にコンタクトしてきた人材紹介会社の斡旋で入社。年収は前職に比べて増加した。「金融機関のコンプライアンス担当者の会合に顔を出すと、60代後半でも現役で活躍している人も見かける」。Aさんは定年まで現在の会社で働くつもりだが、「今でも人材紹介会社からのメールが頻繁に届く」。
コンプライアンスはコロナ感染が深刻化する以前からすでに引く手あまたの人気職種だ。時代の要請に即した専門の領域での知識や経験がなければ、40~50代の転職がそう簡単でないのも事実。早期退職希望者の募集などを行う企業が相次いでおり、労働環境はむしろ厳しさを増している。
中高年層については「単にペーパレス化が進んでデジタルでの仕事に置き換わることがDX、と誤解している人が少なくない」との声も現場からは聞かれる。大手広告代理店の幹部は「若手よりもITリテラシーが高いと考えている中高年の社員が意外に多いという調査結果もある」と苦笑まじりに話す。
こうした中高年と現場全体の認識のずれが人材紹介ビジネスのマッチングの難しさにつながっている面があるのかもしれない。紹介手数料は転職者の年収の30~35%が相場とされる。成功すれば紹介会社の儲けは大きいが、年収が高くなるほどマッチングは困難になるという。「剣山の針どうしを合わせるような作業」。業界関係者はそう漏らす。
連載 : 足で稼ぐ大学教員が読む経済
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