──経営者にとって重要だと思う素養をお教えください。
私は人が働く理由は以下の5つのパターンの組み合わせだと思っています。
1:やりたいからやる(例えば趣味嗜好)
2:できる、もしくはできるようになりたいからやる
3:何かを得たいからやる(例えばお金、承認など)
4:なりたいからやる(例えばプロスポーツ選手、博士など)
5:社会に対して何かを成したいからやる
私の場合、PR TIMESを始める前は1〜4のどれかの組み合わせで仕事を選ぶことが多かったのですが、この事業と出会ってはじめて5の「何かを成し遂げたいからやる」という職業観に変わりました。
「何を社会に対して成し遂げたいか」という志が経営者には必要不可欠ですし、私はこの事業を通して「行動者発の情報が、人の心を揺さぶる時代へ」というミッションに出会うことができました。これはとてもラッキーなことだったと思います。
──PR TIMESを始める前から志を明確に持たれていたわけではなかったのですね。
私の場合は、PR TIMESの事業が志を育んでくれたと思っています。
PR TIMESの前身となるのが、2006年5月にベクトルが立ち上げた「キジネタ.com」というネットPRサービスです。インターネットの時代に合った、企業とメディアのリレーションを構築する新しい記事ネタ流通サービスというコンセプトでした。
とはいえ、当時、「プレスリリースは終わった」とも言われている時代で、コンセプトはあるものの、肝心の「何を流通させるのか」がないまま会社をつくり、サービスをローンチしてしまった状態だったんです。それをなんとか立て直すというのが私の最初のミッションでした。
最初の仕事は立ち上げたサービスを即日停止する、後ろ向きな仕事でしたね。
──壮絶な船出ですね。
それまでは取締役という肩書きはあったものの、真の意味での経営者ではなく、業務執行の責任者、という意識レベルだったのだと思います。しかし、修羅場に追い込まれてはじめて自分のリソースを超えて機会を追求するという「アントレプレナーシップ」が自分の中で芽生えました。
「アントレプレナーシップ」は会社の代表になったら自動的に身に付くかというとそうではありません。平時から持てればベストですが、誰もがコントロールできない事態に翻弄され、自ら追いつめられた修羅場のなかで徐々に培われた、というのが私のケースだったと思います。