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2015.05.23 07:00

税収3倍、雇用2倍! アメリカ発祥の地域経済開発手法「エコノミック・ガーデニング」とは何か。(後編)

weerapat / Bigstock

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ギボンズから薫陶を受けた、拓殖大学政経学部教授の山本尚史は日本におけるエコノミック・ガーデンニングの第一人者だ。
日本版エコノミック・ガーデニングを提唱する山本は、政策を軌道に乗せるためには「インフォメーション」「コネクション」「インフラストラクチャー」の3 要素が大切である、と説く。

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「まずは、適正なインフォメーション(情報)の提供と分析が必要です。情報となるデータベースには、売れ筋商品の分析や顧客情報、商圏および競合企業の分析などさまざまな種類があります。アメリカでは、クレジットカード会社などがこうした商用データベースから個人情報を除去したうえで、高値で販売しているのです。それを行政が購入し情報を分析して、結果を企業に提供します。それにより、企業はその分析結果を活用することができます。どこでどんな商品を売ればいいのか、出店場所や商品開発の重要なヒントになりますし、ニッチ市場(隙間市場)を見つけることも可能になるわけです」

日本では、クレジットカード会社の顧客情報が売買されることはあり得ない。しかし、行政や業界団体が調査した商工業の各種統計や専門紙誌の過去記事などのデータベースは入手できる。インターネットで地理情報と統計情報(人口統計や世帯の収支情報)を組み合わせ、地理情報システム(GIS)を構築することも可能だ。山本が推奨するのが、公共図書館との連携である。すでに、全国で「ビジネス支援図書館」としての機能の設置が広がっている。窓口は増えたとはいえ、企業家はもっと使いこなす必要性があるだろう。思い切って足を運んでみれば、図書館スタッフによる資料や情報についての相談、データベース検索など利便性を実感できるはずだ。

 2点目のコネクションは「産・学・公・民・金」のつながりを深めることだ。山本は、このネットワークにこそ日本版エコノミック・ガーデニングの強みが秘められていると言う。
「日本では、良くも悪くも古くから『産学官』のトライアングル体制がありますから、役所が行うことに対する信頼度が高い。アメリカは逆で、役所は規制し、課税するところという面ばかり先行して不信感が強い。けれども、エコノミック・ガーデニングでフロリダ州などが『カンパニーズ・トゥ・ウォッチ(注目すべき企業)』という制度をつくりました。行政が企業にお墨付きを与えるわけで、当然、新たな企業間の連携が生まれたり、研究機関から注目されたりというケースが出てきます」
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昨年9月、大阪府がエコノミック・ガーデニングを導入し、「EGおおさか」を展開しているが、実は、府でも7 年前から企業顕彰制度を実施してきた。大阪は、全国一の製造業の事業所が集まる“ものづくり”の町である。年1回、技術力や財務力、QCD(品質・コスト・納期)、地域貢献度などを審査して「大阪ものづくり優良企業賞」を授与している。受賞企業に対しては取材を行い、紹介冊子を製作している。この冊子は府が出展する大規模展示会でプロモーション活動の一環として配布され、他の企業との提携など橋渡しに一役買っている。府商工労働部ものづくり支援課の領家誠が説明する。
「府では10年4月、中小企業の支援拠点としてMOBIO(ものづくりビジネスセンター大阪)を開設しました。私たちが取り組んできた支援プランは、エコノミック・ガーデニングの方法論と合致するものでした。展示会の視察者に府の取り組みを伝えることで、MOBIOの常設展示場の来場者が大幅に増えています。中小製造業者からの相談件数も開設前は年間3,000 件程度だったのが、13年度は約1万3,000件に増えました。府内の「産・学・公・民・金」の各機関との有機的な連携の強化と担い手づくりを通じて、地域企業への支援力の向上を目指しています」

3点目のインフラストラクチャーとは、道路や水道の敷設など物理的なものだけではない。まさに大阪府のような拠点づくりであり、人材養成のコンセプトを設計することを指す。
エコノミック・ガーデニングの主体となるのは自治体が多い。ただ、スタッフとなるガーデナー(庭師)を、山本は日本版においては“ 地域経済コンシェルジュ”という名称に言い換えた。企業コンサルタントのような肩書や上意下達方式でもなく、「産・学・公・民・金」から幅広く養成され、出現してほしいとの期待を込めている。山本は言う。

「アメリカのようにガゼル企業を支援するという、えこひいき的な制度を、公平・平等を重んじる日本の地域社会が受け入れるには時間がかかる。しかし、日本はもともとネットワーク社会だから、地元の中小企業を支援することによって地域全体が浮揚する可能性を秘めています。エコノミック・ガーデニングの成果が表れるまでには相当な時間がかかります。役所の担当者が数年ごとに代わるようでは、継続性も担保されなければ信頼関係も醸成されません。ギボンズ氏がリトルトンで20 年間にわたってリーダーシップを発揮してきたように、長期間にわたってコミットすることが大切です」

徳島県鳴門市の商工政策課長の尾崎康弘は、同課で4年目を迎える。エコノミック・ガーデニングを知る機会があり、関心を持った。鳴門市は鳴門海峡の渦潮で知られる観光都市だが、大手製薬会社の企業城下町でもある。商工政策として企業誘致を進めてきたが、産業団地の土地はすべて売却していた。

エコノミック・ガーデニングを導入するにしても、まず地元企業の状況やニーズを把握する必要がある。尾崎は、係長の藤田卓也とともに企業訪問することから始めた。12~14年の3年間で延べ300社を回った。
「信頼関係を築くために1 社1 時間くらい、経営者の方に直接お話を聞きました。推測していた通り、製造業やサービス業を中心に経営に苦戦しており、売り上げは緩やかな右肩下がりか横ばいという状況でした。全体的に閉塞感が漂うなかで、食品分野は比較的好調であることがわかりました。特に鳴門金時、レンコン、わかめ、梨など特産品の生産・販売会社などは代替わりしている会社が多く、経営者が若くて前向きな姿勢が感じられました」

13年8月、食品部門の企業14 社で「エコノミックガーデニング鳴門・経営者ネットワーク会議」を立ち上げる。13回にわたって会合を重ね、初の商品が完成する。各社が共同で塩蔵わかめや干物、醤油、しいたけなどを詰め合わせたお中元セットが販売された。だが、売れ行きは思ったほど伸びなかった。
尾崎に落胆の色は微塵もない。
「コラボ商品は好調とはいえませんでしたが、1 社の脱落もありませんでした。次はどうやって売ろうか、とみんなで話し合っています。作るのは得意だけど販売は苦手とか、お互いの不得手な部分を補い合う機会ができました。まだまだ発展途上です。現在、地元のホテル業者と観光部門にも取り組んでいますが、食品部門との連携も模索しています」
日本版エコノミック・ガーデニングはまだ端緒で、播種の段階なのである。
山本によれば、エコノミック・ガーデニングは内発的発展論を政策として具現化したものという。地域社会の開発は中央主導ではなく、地域の人々が積極的に参画して発展を遂げていくことが理想である。ただし拒絶するのではなく、中央や外部との交流の必要性を山本は希求している。

「内発的発展論は、例えば地産地消というふうに地域を閉じてしまうのではなく、外部とのつながりを持ちながら発展していく考え方と捉える必要性があります。エコノミック・ガーデニングは内発的発展論を理論的背景に置きながら、コミュニティを大切にしつつオープンネットワークでなければなりません。地域外の資源や情報、市場経済を活用してこそ成立する政策なのです」

亀井洋志=文

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