改めて確認すると、「動物性食品を一切口にしない完全菜食主義者のこと。肉・魚・乳製品だけでなく、肉や魚を使っただし汁や、厳格には蜂蜜などの動物に由来する食品を除いた食事を摂ること」とある。かなり厳しい制約であるように思うが、健康や宗教上の理由だけでなく、サステナブルな食のためにと、ビーガンを選択する人が欧米では増えているという。
ニューヨークなど米国で料理人として働いたことをきっかけにビーガンに目覚めたという、杉浦仁志シェフ。彼の考えや活動を知れば、ビーガンがなぜ社会のためになり、食の未来を切り開くことができるのか、納得できるに違いない。
ONODERA GROUP エグゼクティブシェフ 杉浦仁志
料理よりも、文化を学べ
まずは、料理人としての生い立ちから。杉浦氏は、大学を卒業後、和食の料理人としてキャリアを積み始める。
あるとき、米国のパティナレストラングループを運営していた会長より指示を受けて専属シェフとなり、国賓関係者をはじめ海外のゲストをもてなす機会が増えていき、国際的な食文化の深さに興味を抱くようになる。本来、料理人の花形を目指すなら本場フランスで修業を積むことが主流だったなか、杉浦氏は国際的な食を学ぶのであればアメリカという信念を持っていたという。
その想いが通じ、2009年に渡米。当時、全米に50店舗を展開していたパティナグループの総料理長で、料理界のアカデミー賞と言われる「ジェームズ・ビアード」を受賞したジョアキム・スプリチャル氏の下で研鑽を積んだ。
彼に「料理を学ぶよりも前に文化を学べ、でなければ、多様な国際的文化と食が融合するアメリカのレストラン業界では活躍どころか、キッチンに立つ資格もない」と最初に言われ、とても心に響いたという。
「レストランには各国のスタッフがいて、いろいろな国の言葉が飛び交い、厨房はまさにダイバーシティーでした。そしていろいろな文化的背景やさまざまな事情を持つお客様がいらっしゃる。ビーガン、ハラール、コーシャーなど、個々の要望を満たす対応が要求されました。メニューにないものを作るのは当たり前でしたね。そこで初めてビーガンと出会ったわけですが、大きな魅力と可能性を感じ、厨房で学ぶと同時に、自分でも研究し、掘り下げていきました」