ビーガンの価値を上げる。店を持たないシェフの美食とビジョン

ONODERA GROUP エグゼクティブシェフ 杉浦仁志


ONODERA GROUPに入っての象徴的な活動例がある。その名も「1000 Vegan Project(ワンサウザン ビーガン プロジェクト)」。企業、学校、病院など、全国1000か所でビーガン食を提供し、その意味を説くことで環境問題を考えるきっかけにしてもらうことを目指したプロジェクトだ。

現在までで1018カ所、約11万食を達成している。数の力による啓蒙力もさることながら、一番の成果は、食や環境問題への意識を変えられたことだという。その活動は海外のメディアでも、ビーガンの社会的意義と可能性として大きく取り上げられた。


World Vegan Project Vol.1にて。右はオランダから来日したGijs Kemmerenシェフ

また、シェフとしての自身のブランド価値を上げ、より発信力を増すために、定期的に、国内外のミシュラン星付きのシェフや、世界のビーガンコンペティションワールドチャンピオンなどとのガストロノミックなビーガンイベントも開催している。なかには、フランス菓子の巨匠ピエール・エルメ氏とコラボし、佐賀の嬉野の老舗旅館で、地方創生の意味を兼ねつつ、新しいウェルビーイングの創造のためのビーガンを組み込んだ料理といった試みもしている。

2021年には、日本サステイナブル・レストラン協会(イギリス発の啓発プログラムFOOD MADE GOODの日本支部)のプロジェクトアドバイザーシェフに就任した。この協会が正式に発足したのは2018年で、フードロス、健康創造、持続可能な食の提供、食文化の保護など、飲食店がサステナビリティに配慮した運営ができるように支援する協会である。世界では12000軒のレストランが加盟している。

環境意識が高いとは決していえない日本は2年前に参画ばかりだが、現在は30のレストランが参加。なかにはロオジエ、ファロ銀座資生堂、オードといったファインダイニングも含まれる。そうした協会に関わることで、SDGs先進諸国からの有益な情報もより迅速にダイレクトに入り、ますます杉浦氏の活動の幅が広がり、その勢いに拍車がかかるであろう。

「料理人はもっとさまざまな分野で人を幸せにすることができるはずです。食を通じてコト・モノ・ヒトを繋ぎ、社会と連携しながら、食のイノベーションを発信していきたい」という。

店舗を持たないことで、杉浦氏の作る華麗なビーガン料理を食べる機会がなかなかないことは残念ではあるが、企業、農家、病院、学校などと連携して仕事をするという、従来の料理人の領域を軽々と超えて多角的な視野を持って活動するその姿には、ソーシャル フード ガストロノミーを目指すという言葉の真の意味と力が感じられる。今後、料理人が社会を動かしていくための、一つのロールモデルになるであろうことは間違いない。



連載:シェフが繋ぐ食の未来
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文=小松宏子

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