ビーガンの価値を上げる。店を持たないシェフの美食とビジョン

ONODERA GROUP エグゼクティブシェフ 杉浦仁志


杉浦氏が提唱するビーガンは、決して冒頭の定義のように厳格なものではない。

週2回ベジタリアンにするなど、ゆるやかな菜食主義のことを“フレキシタリアン”というが、それでまったくかまわないという。仮に、日本中の人が週2回肉を食べるのをやめれば、家畜の生産量は大幅に減り、CO2の問題に貢献できるのであろうかと杉浦氏に問うと、その通りとの答えが返ってきた。


イチジクと栗のタルタル 果実のリダクション

杉浦氏は、ビーガンの付加価値を上げるために、ガストロノミーとしてのビーガンにもさまざまに取り組んできた。

例えば、2017年には、野菜のみを使用した料理の世界大会「The Vegetarian Chance」ではトップ8に入選。また、イタリアでミシュランの星を獲得しているヴィーガンレストラン「JOIA」のシェフと文化交流もしてきた。「クリエイティブに野菜をデザインすることで野菜そのものの価値を上げる。それが自分の役目」という使命感を持ち、ビーガンのブランド価値が上げることで、食の未来を変えることができると信じての活動だった。

店舗を持たず、力を発揮する


その後、2019年にONODERA GROUPに移籍し、会社全体の食を担う、グループエグゼクティブシェフとして活動することになるが、これがまた一つの転機となった。

ONODERA GROUPとは、ミシュランの星を持つ寿司店や薪焼き店などを営む一方、コントラクトフードサービスといい、企業、病院、有料老人ホーム、保育所などの食を担う、社会的活動に力を入れている企業である。そうした会社の姿勢と、杉浦氏の理念が合致し、ソーシャル フード ガストロノミー化が加速していく。

具体的には、企業と連携したビーガンメニューの開発、認知症予防の食事療法研究など医療との連携、専門学校講師、ビーガン素材となる野菜の土壌や種子の研究、2021年に東京で行われた国際的スポーツ大会で、イギリスチームのビーガン、ベジタリアン、グルテンフリーメニューを監修するなど、実に多岐にわたっている。
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文=小松宏子

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