「投資するお金に祈りを込める」という鎌田恭幸の言葉は、投資への思考に必要な合理的戦略と計算からかけ離れているように思えるが、鎌倉投信が設定・運用する公募投信「結い 2101」は2万1000人を超える個人投資家から支持され、純資産額は480億円を超える。
「人」「共生」「匠」を軸に「いい会社」への投資を行う鎌倉投信を指揮する鎌田の投資思考は、一般的な投資家とは大きく異なる。ファンド運営に携わるマネジャーの思考は、いかに稼げる企業を見分け、利得を得るかに寄る傾向にある。しかし、鎌田は言う。「お金は命の裏側にあるもの。命の時間を削って仕事に充ててお金に変えている。そのお金をおろそかにしてはいけないというのが根本精神」。こうした投資思考は、彼自身の人生をかけて醸成されてきたものだ。
島根県生まれの鎌田は、食料品店を営む両親の背中を見て、お金と人のつながりへの感謝を忘れない生き方を学んだ。大学を卒業後、機関投資家として20年超のキャリアを積んだのち、鎌倉投信を創業した。旗艦ファンドである「結い2101」は鎌田の思いを強く反映している。しかし、東日本大震災での経験を契機に、彼の投資思考はより深みを増すことになる。
2011年3月。未曾有の震災に対し、日本の金融市場は混迷を極めた。国内の株価指数は大幅に下落し、投機的な思惑による円高が投資センチメントを悪化。多くの投資家は資産売却を進めるなど、守りに転じていた。しかし、混沌とする金融市場とは対照的に、「結い2101」への購入申し込み件数が当時最大を記録。相場の反発を見越した逆張り投資かとも思われたが、そうではなかった。鎌田のもとには、投資家から「応援したい」「力になりたい」とのメッセージが次々と寄せられた。震災で窮する日本の「いい会社」を支援したい、そんな祈りともいえるお金だったのだ。
では、「いい会社」や「お金に祈りを込める」という抽象的な彼の話を、より具体的にしたものがESG投資なのか。鎌田の答えはノーだ。「なぜその活動が必要なのか。その会社の社員が、納得感を共有しているかを見極める必要がある」と語る。社会貢献活動にも投資にも通じることだが、企業が表層的ではない、一貫した価値観をもつことが肝要だという。