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2021.12.09

社員は企業活動に納得しているのか? あえて「ユニコーンを狙わない」ファンドの狙い

鎌倉投信 鎌田恭幸


持続的発展を応援するのが目的


そんな「いい会社」を発掘するだけでなく、直接的な支援によって成長を促すための新ファンドが、21年3月にフューチャー・ベンチャー・キャピタルと共同で設立した「創発の莟」1号投資事業有限責任組合(特定投資家向け私募)だった。鎌倉投信が得意とする上場企業への投資とは趣が異なる。同社が信頼する事業会社や金融機関などのパートナーから出資を募り、彼らとの協働によって投資と成長支援を行うVCファンドだ。立ち上げの背景について鎌田は「社会的な取り組みを行うスタートアップへの評価や理解をする投資家が少ない」と語った。既存のVCファンドは株式上場やM&Aなどを収益機会としているため、必然的にユニコーン企業として急成長できるスタートアップが投資対象となる。しかし、鎌倉投信は「これからの社会を創発に導く」可能性を秘めるスタートアップが主な投資対象。鎌田は「ユニコーンを目的化しない」と断言した。

スタートアップ投資は近年盛り上がりを見せている。VCやCVCからの資金流入が継続するなか、規模の大きなVCファンドも多数立ち上がり、資金過剰の「売り手市場」ともされる。そうした領域にあえて参入する「創発の莟」は、その他のVCファンドとは一線を画し、スタートアップ目線でも存在感がある。

その特徴のひとつが、鎌倉投信の資産運用会社としての知見だ。公開株投資の経験が厚い鎌倉投信は、長期目線に立った戦略を有しており、株式上場後の世界を熟知している。上場を果たしたとしても、「いい会社」であり続けなければ投資家からの評価は得られず、企業価値を落としてしまう。だからこそ、「いい会社」であり続けるためのノウハウを知る機関投資家からの支援には意味がある。

ファンド出資者であるパートナー(LP)を公表するのも、もう一つの特徴だ。従来のVCファンドであれば、得られる支援はベンチャーキャピタリストの人脈や経験に依拠することが多く、出資後のサポート体制を把握しにくい。しかし、「創発の莟」はパートナーの顔が最初から見えていることから、積極的な支援や共創機会をイメージしやすい。
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文=大崎 匠 写真=有高唯之

この記事は 「Forbes JAPAN No.086 2021年10月号(2021/8/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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