一般の認識とは裏腹に、「処方されたオピオイド系鎮痛剤」の誤用、乱用、転用という問題は、近年ではそれほど大きな要因ではなくなっている。薬物過剰摂取による死亡をめぐる記事には、処方された鎮痛剤の瓶の写真が添えられていることが多いが、それが誤った印象を生んでいる。
したがって、現在進行している危機に関しては、処方されたオピオイドと、違法オピオイドがもたらす役割を適切に区別することが重要だ。薬物過剰摂取による死亡原因の大多数を占めているのは、ヘロインと、合成オピオイド系の違法薬物フェンタニルであり、とりわけフェンタニルは圧倒的に大きな要因になっている。
現在のオピオイド危機は、「米国で最も重要だが、防止可能でもある公衆衛生問題」と言われている。おそらく、そのとおりだろう。あまり注目されなかったものの、2021年10月にはバイデン政権が、薬物過剰摂取による死者数を抑えるための新施策を提案している。
連邦政府の支援拡大と、違法薬物を常用している人の被害を減らすための戦略の調整については、合意が形成されつつある。たとえば、フェンタニル検査用ストリップの配布を拡大すれば、路上で売られている、致死性の高い合成オピオイドで汚染された薬物を避けることができるだろう。
バイデン政権の計画には、おそらくそれよりも物議を醸しそうな方策として、注射針交換プログラムの拡大も盛り込まれている。こうしたプログラムは、HIVや肝炎といった感染症の拡大を防ぐ効果があることが、数十年前から実証されている。
地方自治体レベルでは、違法薬物常用者の被害を減らすための包括的なプログラムがすでに実施されている。ニューヨーク市は、専門家の監督のもとで薬物使用者が注射を打つことができる2施設の開設を許可した。
この施設では、清潔な注射針が提供されるほか、過剰摂取の影響を打ち消すナロキソンなどの薬剤も投与される。利用者には、依存症治療の選択肢も提示される。