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現実となった民間人の「宇宙旅行」など、急速な変化をみせる宇宙ビジネス。最後の未開拓市場ともいえる宇宙ビジネスに新たに参入したSpace BDの永崎将利とPale Blueの浅川純。宇宙商社、人工衛星用エンジンという領域で事業をスタートさせた2社の事業戦略や今後のビジョンとは。

東京都のファンド出資事業で2社にハンズオンするインキュベイトファンドの赤浦徹を加えた三人での鼎談が実現した。

Space BD(スペース ビー・ディー):技術力に立脚した営業力と事業開発力を強みとし、衛星打ち上げや宇宙空間の利活用を目指す顧客に、ゼロからの事業立案と実行、技術的な支援をトータルにサポートする「宇宙商社」として展開。

Pale Blue(ペールブルー):従来の高圧ガスや有毒物ではなく持続可能な推進剤の「水」を活用したエンジンの開発を進める。

インキュベイトファンド:コンセプトの段階から起業家とキャピタリストが一体となって事業を立ち上げて行く独自の支援スタイルで、創業初期の投資・育成に特化する独立系ベンチャーキャピタル。


「知識ゼロ」の状態から宇宙ビジネスに挑む


赤浦:永崎さんに「ロケットをやりましょう」と話を持ちかけたのが2016年。その後、二人で宇宙関連のあらゆる人に会ってヒアリングをし、7か月後には起業。わずか4年余りで、人工衛星の打ち上げ契約を50件以上受注するなど、日本の民間企業でNO.1の実績を上げるまで成長を遂げられた。出会った時から永崎さんは事業を創れる人だと信じていたのですが、情熱をもって事業を推進してきたバイタリティは私の予想をはるかに超えていました。

永崎:ありがとうございます。赤浦さんとの出会い、そして、あの時の一言がなければ今の私はありません。私は「宇宙」のことは全くの門外漢で、スターウォーズさえ観ていなかった(笑)。あの時、正直なところ、あまりにもスケールが大きくて戸惑いはありましたが、無限の可能性を感じました。その後すぐに赤浦さんと行動して宇宙分野のオーソリティの方々にヒアリングしましたが、各人とも見解が異なり結局、全体像が見えてこない分野でした。

でも、赤浦さんの「ロケットが輸送機で、荷物が人工衛星。そこに様々なコーディネイトをするブローカーが必要なのではないか」というアドバイスからスタートしました。今では人工衛星を宇宙に運びたい企業や大学、宇宙新興国の政府などをターゲットにJAXAのロケットを利用して輸送支援をする事業を中心に、様々なサービスを提供しています。まさに社名のSpace BDでもわかるように宇宙のビジネスをデベロップメントする企業として活動しています。

Space BD代表取締役社長 永崎将利

赤浦:浅川さんとは、当社の村田から「浅川さんと一緒に会社をつくりたい」という提案があり、投資をすることになりました。当社の人間や永崎さんもみんな浅川さんがいいという。そんな人間性とエンジニアとしての優秀さが魅力なのですが、そもそも宇宙に興味を持ったのはいつからですか?

浅川:高校時代ですね。父の影響で次第に宇宙に興味を持ち、進学先を検討する際に検索エンジンに「宇宙」とキーワードを入れたら航空宇宙工学という分野があることを知り東大に進学。在学中はロケットエンジンを研究する小泉研究室に在籍しました。その後、大学院で博士課程に進み小型衛星を開発するプロジェクトに参加したんですね。いろいろな宇宙開発の経験をする中で、基礎研究と実利用とのギャップに疑問を抱いて、そのギャップを埋めるべく、2020年に小泉先生や学生を巻き込んで、2020年にスタートアップのPale Blueを立ちあげたという経緯です。

永崎:私はPale Blue誕生前夜に浅川さんと知り合ったんですね。小泉研で実証機を宇宙に打ち上げるプロジェクトがあり、橋渡しをしたのがきっかけでしたね。

浅川:あの時、打ち上げ費用の支払時期の問題で、JAXAと東大のシステムの違いから条件が折り合わない時に、間に入って着地点を見出して解決してくれたのが永崎さんでした。その実証機というのが現在当社で開発を進めている水を推進剤とする小型衛星用のエンジンでした。

水を推進剤とする人工衛星用のエンジンを開発


赤浦:Pale Blueの技術力は世界レベルだと思うのですが、起業後も着実に宇宙での実証実験の準備が進んでいるようですね。

浅川:はい、来年には複数の実証実験が予定されています。やはり宇宙空間での実証実験の結果が人工衛星に搭載してもらえる重要な評価基準になります。そのためにも大きな飛躍が期待できます。


Pale Blue代表取締役CEO 浅川 純

永崎:私は浅川さんが開発している水を推進剤とするエンジンを人工衛星メーカーなどに供給する立場になるのですが、今後も高い競争力をもった製品になると思います。

浅川:ありがとうございます。現在の人工衛星の大部分はエンジンを搭載していなくて、自ら動けません。ロケットで打ち上げても目的の軌道まで推進できないので、そこを通るロケットを待ったり、ロケットを買いきって打ち上げなければなりませんから、コストもかかってしまう。また、軌道がずれた人工衛星の修正や、使命が終わり不必要となった人工衛星は軌道離脱して大気圏に突入することで宇宙デブリにならないようにしますが、その際にも推進装置は不可欠です。そうした人工衛星が抱えるいくつもの課題を解決できるのは間違いありませんし、水ならば安全でコストも安く、環境にも優しいという優れた特性もあります。

永崎:当社は浅川さんと違って技術に立脚しているわけでないので、足元で着実にビジネスをやりながら、将来に対する投資も行うというバランスが重要になります。宇宙分野はまだ産業の黎明期ゆえに予見性が低いので多角化という方針を打ち出し、衛星打ち上げサービス、ISS利活用、技術プロジェクトマネジメントサービス、教育、地域産業振興など多岐にわたり事業を行っています。宇宙分野でここまで幅広い事業を展開している企業は他にないと思うので、宇宙ビジネスに関する様々なニーズが見えてくる。それが当社の最大の強みですね。

宇宙分野から新しいヒーローが生まれることを期待


赤浦:私は21世紀を代表する企業を創るために、これまで多くの企業に投資をしてきましたが、残念ながらその目標は達成されていません。そこで期待しているのが宇宙分野です。宇宙ビジネスは未だに無法地帯で、法律も制定されておらず、確固としたビジネスモデルもない。だからこそ、お二人には大いに期待しています。そこで世界に勝つためにどうするのか、今後の戦略についてもお聞かせいただけますか。


インキュベイトファンド代表パートナー 赤浦 徹

永崎:当社は宇宙商社として多くの企業・団体向けに個別最適化した取り組みを提供しています。直近では、宇宙を通じた地域振興のための地方自治体へのサービスなども増えてきました。「早く、安く、簡単に」宇宙空間にモノを打ち上げる事業を拡大しているのも同じ考えに基づいているのですが、多くの企業・団体が宇宙ビジネスに参入しやすいように介在することが当社の使命だと考えています。自らも新たな宇宙の利活用の種を蒔き続ける。そして将来的には宇宙を日本発で世界を代表する産業にする。それが目指すゴールです。

浅川:水エンジンを利用できる範囲をどんどん広げていくことです。例えば、人工衛星に水エンジンを搭載するだけでなく、宇宙空間で水を補給できる補給機も作りたい。そうすれば人工衛星の活動範囲を広げることにつなげます。また、同時に水エンジンを大きな人工衛星にも搭載できるようにすることで、宇宙空間における様々な輸送ニーズに対応できるソリューションを増やしていきたいと考えています。

赤浦:なるほど。現在、宇宙分野の開発はアメリカが頭一つリードしている状況です。しかし、宇宙開発は入口に立ったばかりです。そして、今、経済安全保障という概念が大きくなってきており、国単位で宇宙につける予算規模もどんどん大きくなってきています。この予算をスタートアップに投資していけば、大企業よりもはるかに安くスピーディに事業を推進することができる。戦う相手は世界ですから、宇宙分野のスタートアップの中から新しいヒーローが生まれることに期待しています。


永崎将利◎Space BD代表取締役社長。早稲田大学卒業後、三井物産で人事、鉄鋼貿易、鉄鉱石資源開発に従事。2013年に独立後、ナガサキ・アンド・カンパニーを設立、主に教育事業を手掛け、17年Space BDを設立。日本初の「宇宙商社®」として、設立9か月でJAXA初の国際宇宙ステーション民間開放案件「『きぼう』日本実験棟からの超小型衛星放出事業」の事業者に選定されるなど、宇宙商業利用のリーディングカンパニーとして宇宙の基幹産業化に挑んでいる。

浅川 純◎Pale Blue代表取締役CEO。東京大学大学院 航空宇宙工学専攻 博士(工学)。東京大学小泉研究室で超小型衛星用推進機の研究開発に従事。主な研究成果はデブリ除去衛星用レーザ着火固体スラスタの開発、小型深宇宙探査機PROCYON推進系の開発・運用、超小型深宇宙探査機EQUULEUS推進系の開発、ISS放出水スラスタ実証衛星AQT-Dの開発等。2020年3月に東京大学を退職し、4月にPale Blue設立。

赤浦 徹◎インキュベイトファンド代表パートナー。ジャフコにて8年半投資部門に在籍し前線での投資育成業務に従事。1999年にベンチャーキャピタル事業を独立開業。以来一貫して創業期に特化した投資育成事業を行う。2013年7月より一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会理事。2015年7月より常務理事、2017年7月より副会長、2019年7月より会長。

Promoted by 東京都 / text by Tetsuji Hirosawa / Photographs by Tadayuki Aritaka / edit by Hirotaka Imai

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