老舗手ぬぐいメーカーの奇策 究極の防曇も
「顔が見える透明マスク」の開発は、実はユニ・チャームがはじめてではない。ユニ・チャームが『顔がみえマスク』を発売する約半年ほど前、既に商品化を実現していた企業がある。
1889年創業の東京和晒株式会社は、「東京本染(ほんぞめ)」と呼ばれる伝統技法を用いた手ぬぐいの製造販売を手掛ける老舗繊維メーカーだ。
2020年春、コロナ禍を機に突如全国的に品薄となった不織布マスクの代用品として手ぬぐい用の「さらし生地」が売れたことをきっかけに、2020年6月『らくなさらしマスク』を発売。2021年1月には、口元に透明のビニール素材を使用した『透明マスクミセルンデス』の販売を開始した。コロナ禍で、各地の祭りや催事がことごとく中止となり、手ぬぐいの需要が激減した中での背水の陣だったが、聴覚障がい者をはじめ、手話通訳、保育士などにも支持され、現在までに1万枚以上を売り上げることに成功している。
2020年6月発売の『らくなさらしマスク』 通常のマスクと最も異なる点は、下部がフリーであること(写真提供:東京和晒)
2021年1月発売、『透明マスクミセルンデス』 透明のビニール素材を使用。呼気でマスクが曇ることが難点だった(写真提供:東京和晒)
「透明マスク」の需要に応えた一方で、呼気でマスクが曇り、口元が見えなくなるという課題は残ったままだった。
その解決策として開発されたのが、富士フイルム社製・防曇(ぼうどん)フィルム「MF-600」を使用した、『究極の透明マスクスーパーミセルンデス』だ。下方吸排気方式を採用したことで、外気温と呼気に温度差がある場合でもほとんど曇らない仕様となっている。また、自社従来品に対して14%減となる軽量化にも成功。本体は6gと軽く、長時間着用にも耐えられる設計を実現した。
『究極の透明マスクスーパーミセルンデス』使用写真(写真提供:東京和晒)
『究極の透明マスクスーパーミセルンデス』構造図(写真提供:東京和晒)
同商品は現在makuakeを通じたクラウドファウンディングでの支援を要請しており、2022年1月の一般発売を目指している。
マスクに問われる社会性
NHKによれば、気象庁が透明マスクを採用した理由として「マスクをすると口元が読めず、わかりづらい」という視聴者からの意見があったため、としている(*)。報道陣が多数集まる会見の場でマスク着用が欠かせない中、アクリル板やフェイスシールドなどさまざまな対策を検討した結果、透明マスクの着用に踏み切ったという。
現在国内におけるコロナの影響力は鈍化しているとはいえ、報道陣を集めた緊急記者会見など、官公庁においては、やむを得ず大人数を前に発言せざるを得ないケースも多い。これらの透明マスクは安全に配慮したうえで、コミュニケーションの多様性にも応えた社会性ある商品といえそうだ。
日夜急速に変化する社会情勢に柔軟に対応することが求められる今、新たな社会課題にいかに迅速に解決策を提示していけるかは企業の大きな課題となっている。顕在化されていないニーズをいち早くキャッチし、いかに新たなヒット商品を生み出していくか。企業努力が試されている。
*出典:透明なマスク 気象庁の記者会見 着用の理由を探ってみると…. NHK NEWS 参照 2021ー11ー29