EXPAND TO THE WORLD

ふたりの情熱から始まった
デジタルファクトリー

製造業のデジタル・トランスフォーメーション(DX)から生産ラインの開発・実装までを包括的に支援するコンソーシアム「Team Cross FA(チームクロスエフエー)」のプロデュース統括でロボコム・アンド・エフエイコム(R&F)代表の天野眞也と同じく技術統括でR&F代表取締役の飯野英城。ふたりの出会いは、営業マンと顧客の立場だった。オフィス エフエイ・コムを経営する飯野がキーエンスに業務の進め方についてクレームを入れたところ、謝罪にやってきたのが天野だったのだ。飯野は当時をこう振り返る。

「最初は相手にする気もなかったのですが、会社まで謝りに来るというので会いました。その対応が普通の人と違っていたということもあったのですが、年齢も近かったので、すぐに仲良くなりました。営業に同行したことがありますが、天野さんは、単に物を売るということをしませんでした。お客様が何をしたいのかを聞き、本当に求めているものを売ります。当時私は、技術さえあれば仕事をとれると思っていたのですが、天野さんと出会って、営業に対する考え方が変わりました」

その後、天野はキーエンスを辞め、のちにFAプロダクツを創業するが、製造業を変えたいという思いを抱くふたりが協業パートナーになるのは、自然な流れだった。さまざまな生産設備やソフトウェアを組み合わせ最適な自動化を実現するには、「ロボットシステムインテグレータ(ロボットSIer)」の存在が欠かせない。まずは、ロボットSIer業界を変えなければならないという共通の想いがあったのだ。

それを実行に移すべく18年、ふたりは産業用ロボットシステムとIoTを組み合わせた常設展示場「Smart Factory Conductor LABO(スマラボ小山)」を栃木県小山市に開設した。

「当時話していたのは、ロボットSIerは、その技術を見せる場が絶対に必要だということでした。ロボットSIerは、お客様のためにつくった設備を公開しようものならたちまちクレームが来るクローズな世界です。技術力があることを具体的にアピールできない業界なのです」

そのロボットシステムを惜しみなく披露し、ロボットSIerが技術を学ぶために設けられたのがスマラボ小山なのだ。

さらにふたりはR&Fを設立し、Team Cross FAを立ち上げると、20年にはスマラボ東京を開設した。スマラボ小山からさらに踏み込み、デジタルツインにより最適生産を実現した次世代生産システムを提案したのだ。そして21年、フェーズは展示から実践へと移った。その集大成ともいうべきデジタルファクトリーが南相馬工場なのだ。

R&F代表取締役 飯野英城

飯野英城 Team Cross FA技術統括でR&F代表取締役

仮想生産ラインを活用した
「デジタルツイン」が最適生産を実現

飯野は23歳で独立して以来、30年近くにわたり、さまざまな業界のオートメーションを手がけてきた。それは工場に留まらず、空港の給水センターの監視システムや丸の内のオフィスビルのビルオートメーションまで手がけてきた。南相馬工場を設計するにあたり、飯野はこれまでの経験をもとに、「変種変量に対応するデジタルファクトリー」をコンセプトとして、「販売から生産設備まで連動した生産システム」「カーボンニュートラルを実現するエネルギーマネジメント」「生産を停止させない工場のネットワークセキュリティ」の3つのポイントにこだわった。

生産システムは、AIによって自動見積もりから生産設備までが一気通貫で連動することを目指している。現実世界から収集した諸々のデータを仮想生産ラインで再現する「デジタルツイン」を展開することで、現実における最適な生産を実現しようというのだ。

「オーダーが入ると生産状況を仮想生産ラインでシミュレーションし、リアルと連動しながら製造を進めるDX型の製造ラインを構築しました。普通の工場では定時間内に組まれている計画があるので、今日中につくってほしいというオーダーが突然入っても、途中から割り込むのは不可能でした。それをシミュレーションとリアルを連動させることで、最も適した順序で生産することが可能になります。明日でいい作業は明日に回すといったように、リアルタイムに柔軟に現場を変えることができるのです」

こうしてシミュレーションによって生産を最適化することで、需要の急変に対応する「理想的な変種変量生産」を可能とした。

一般的な工場では、設計まではシミュレーションができてもそれを現実とつなぐことはできなかった。現場には各種メーカーの機器がたくさんあり、メーカーごとに異なるパラメーターが無数に存在するため、生産状況までシミュレーションして検証するのは難しかったのだ。飯野は機械設計と制御、両方の知見をもち合わせているため、その高度なシミュレーションを実現できたのだ。

「複雑な装置だとどうやって動くのかがわからないため、これまでは実際につくってみるしかありませんでした。しかし、今回導入したシステムにより、バーチャル上で9割の検証が可能になりました。実機にインストールしたら、残りの1割を調整するだけで済むので、効率が大幅に向上します」

R&F代表取締役 飯野英城

ロボコム・アンド・エフエイコム南相馬工場の完全無人エリア。

R&F代表取締役 飯野英城

さらに南相馬工場には、完全無人エリアも設けている。モバイルロボットが保管エリアから材料を取り出し、加工機へと搬送。目的に合わせて切削ツールを自動交換して加工し、終了すると加工品を三次元測定機で検査。合格すると、モバイルロボットがそれを出荷待ちのエリアまで搬送する。シミュレーションに基づいた最適な生産が24時間、自律的に行われるのだ。

南相馬工場では「半製品ロボットシステム」の開発・生産も行っている。現在開発している装置のひとつは、スマートフォン用の組立・検査ロボットで、視覚センサだけでなく力覚センサーを搭載することで、電池カバーがきちんとはまっているかなど、見た目ではわからない感触までロボットが探知する。

「溶接ロボットやネジ締めロボットなど、世の中にパッケージ製品がたくさんありますが、ネジ締めロボットであればネジ締めしかできません。でも実際には、ネジ締めだけを必要とする工場はほとんどなく、工程を分解すると、組立なども必要になります。デジタル上で検証できるようになったことで、半製品でそれらの工程を組み合わせることが可能になりました。個別でみたら単純装置ですが、カメラで認識して自動的に補正することも可能ですし、ライン全体でみたらものすごく付加価値の高い装置です」

半製品を量産することで導入コストが下がるし、ユーザーはそれをカスタマイズすることで、用途に合わせた利用も可能になる。

南相馬発の
デジタルファクトリーを世界へ

高度な生産システムを構築しながら、環境へも配慮しているのが南相馬工場の特徴だ。カーボンニュートラルを実現すべく、電気、空調、水といった工場内のあらゆるエネルギーの使用状況をエネルギーマネジメントシステムで可視化している。

「省エネについて昔から工場で行われていることは、機器を省エネタイプにするだけです。実際にどういう使い方をされているかがわかっていないので、効率的に使用できているかもわからない。消費エネルギーを減らすためには、まず使い方をマネジメントすることが重要です」

一つひとつの設備の詳細な消費電力を把握することで、対策が見えてくると飯野は言う。

エネルギーの使用状況をモニタリングするためには、たくさんのIoT機器が必要になる。そこで注意を払わなければならないのが、ネットワークセキュリティだ。南相馬工場ではその点も万全の対策がとられている。工場内のネットワークを各加工ゾーンごとに分け、それぞれにエッジ側ファイアウォールを設置している。たとえサーバーが攻撃を受けても、ほかの部分がカバーし、工場が動き続ける仕組みが構築されているのだ。

「生産のデジタル化とエネルギーマネジメント、そしてそれらをつなぐネットワークセキュリティがしっかりしていることで、クラウドと現場をセイフティにつなぐことができます」

つまり、シミュレーションデータをはじめとするあらゆるデータを安全に運用することができるのだ。

R&Fが南相馬で目指すのは、地域連携だ。表面処理や熱処理、ソフトウェアなどさまざまな企業、さらには大学や研究機関が集積することで、R&Fをハブとした「スマート工業団地」を形成することを思い描いている。

そしてその先に見据えるのは、デジタルファクトリーの海外への販売だ。必ずしも一から工場を建設するだけではなく、既存工場の生産ラインのデジタル化も視野に入れている。それには、デジタルツインが大きな役割を果たす。シミュレーションと検証が行われたデジタルデータを現地の工場に送り、現場でリアルへと落とし込んでいくのだ。

「工場の箱は南相馬工場のモデルを売っていきますが、生産ラインは仮想上でつくられたデジタルラインを展開していきます。部材はR&Fから半製品を供給し、それを現地のロボットSIerや派遣した当社の社員がデジタルデータ通りに組み付けます。そして、リアルとデジタルとの差を調整するのです。デジタルデータの設計は製品ごとに行う必要があるので、いまはそのノウハウを蓄積している最中です」

飯野が海外にこだわるのは、日本の製造業に対する危機感があるからだ。南相馬工場は、日本のロボットSIerが世界に伍して戦うための後方支援をする。

「日本には優れたハードウェアの技術や要素技術がたくさんありますが、それらを組み合わせ、インテグレートする技術をもった企業はあまり多くありません。しかし、世界ではそれをできる企業がたくさんあるため、このままでは日本企業は、そられの企業の下請けになってしまいます。その状況を変えていきたいのです」

R&F代表取締役 飯野英城

いいの・ひでき◎Team Cross FA技術統括/ロボコム・アンド・エフエイコム代表取締役。

FAシステム技術者を経て1997年、オフィス エフエイ・コムを創業。自動車メーカーのロボット制御からスタートし、IT、医療 システム、物流システムなど事業の幅を拡大。23年間で延べ3,000以上の工場の自動化やロボット化を実現した。

Team Cross FA
https://connected-engineering.com/

ロボコム・アンド・エフエイコム
https://robotandfa.com/

デジタルファクトリー コンセプト解説動画(YouTube)
https://youtu.be/CdWOcJAqlfc

デジタルファクトリー テクノロジー解説動画(YouTube)
https://youtu.be/254s4Omah08

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