Opening Session「Post Innovationとブランド戦略」
Opening Sessionでは、I&CO共同創業者のレイ・イナモトと一橋ビジネススクール教授の楠木建が、コロナ禍による消費マインドやブランド戦略の変容について語り合った。モデレーターは、経済キャスターの瀧口友里奈が務めた。
ブランディングはあらゆる業界で重要であるが、それ自体が目的になっていることで本質を見失っていると楠木は指摘する。SNSなどで刺激的なメッセージを投稿することでバズらせ、ブランドを構築していくという作業は、あまりに“ブランディング”感が強いと言うのだ。
左から、レイ・イナモト I&CO共同創業者、楠木 建 一橋ビジネススクール教授、瀧口友里奈 経済キャスター
しかし楠木によれば、ブランドというのは、振り返ったときにそこにあるものである。それは「人気」と「信用」との違いと同じで、人気は一気に沸騰するが、信用がなければ消失するのも早い。デジタルの時代ではKPIが設定できるし、効果測定もできるが、そうしたやり方が曲がり角に来ている。「すぐに役に立つものほどすぐに役立たなくなるのは、商売における鉄板の法則だと思います」と楠木は断言する。
イナモトも同調し、ニューヨーク大学のスコット・ギャロウェイ教授の「コロナのおかげでブランドの時代の終焉がきた」という言葉を引用し、これからの時代に求められるブランド戦略について言及した。
「デジタル化が進んだことによって、物事の価値が透明化されました。人気のさらに先にあるのが信頼ですが、いかに信頼を得ることができるかが今後のブランド、そして企業のあり方にとっていちばん大事なことです」
では、信頼を勝ち取るためにはどうしたらいいのか。楠木は、DXには社内効率化のための改善と顧客など外部とのタッチポイントとしての顧客満足の向上という役割があるが、後者が「DXの本丸」であり、DXを活用し顧客と直接つながることが「信頼を勝ち取るうえでのものすごく強い武器となる」と指摘する。一方で、「肝心な部分がしっかりしていない会社は、すぐにばれてしまう時代になった」とも付け加えた。
楠木の発言を受け、イナモトはDXの考え方について持論を展開。「なんちゃってDX」にしないためには、「企業文化」を変える必要があると主張した。
楠木は、イナモトの意見に同意したうえで、イナモトの言う企業文化は「因習」だと指摘。楠木によると、文化は変えるのが難しいが、因習は「特段の合理性はないけど、『そういうふうになっている』とみんなが受け入れている規範」なので、合理性がないことに気づけば、すぐに変えることができる。因習は言い換えると「気のせい」であり、それに気づくことができるチャンスが、コロナ禍によってもたらされたと楠木は言う。
そうした話を踏まえ、2人は「気のせい」だったことを変えていくために経営者がもつべき視点について語り合った。