世界銀行で出会った「多様性」
そのきっかけをくれたのは、周りにいたさまざまなバックグラウンドを持つ同僚や仕事仲間だった。
「最初に配属されたチームにいた10人のメンバーは、全員年齢も国籍もバラバラ。それがすごく新鮮だった。みなさん“多様性”を地でいくような方々ばかりでした。長期的な視点で人の話を聞けるし、相手を思いやる包容力がある。存在そのものがサステナブルを体現していましたから。
例えば仲良くなったコートジボワール出身の仲間からは、お金に対する価値観や人との距離感が自分とは全く違うことを教わりました。いくつになっても学び直しができるとも知った。もっと自由でいいんだと思えたんです」
小木曽の目に、彼らの存在はとてつもなく魅力的に写った。というのも、いわゆる「成功者」とされる人たちに、小木曽はなにか違和感を感じていたからだ。
「当時は私の考え方がおかしいのかな、と思っていたんです。でも、世界銀行で働いてみてよくわかった。ビジネスをゴールとする人たちは、サステナビリティをゴールとする人たちとまるで考え方が違った。世界銀行には、“誰も取り残さない”人ばかり。時代はサステナブルの方向へ進んでいくと確信しました。ジェンダーや年齢、社会規範といった『壁』は、そのうち押し流されてなくなっていくだろう。おのずと多様性のある社会になっていく、そう確信したんです」
さらに、「インパクト投資の父」と呼ばれるロナルド・コーエン卿や、『未来をつくる資本主義──世界の難問をビジネスは解決できるか』を著したスチュアート・L・ハート、トリオドスインベストメントマネジメントの会長だったマリルー・ゴルスティンらとも出会った。
こうして新たな視点を手に入れた小木曽は、以降、自分のパッションに合わない固定観念をバサバサ脱ぎ捨てていくことに決めた。「私は自由だ!」そう思えたとき、今につながる考え方のベースができた。
「固定観念から自由になって、心の底から楽しいと思えました。壁にぶつかったら乗り越えるんじゃなくて、ひとまず回避する。自分に合う環境に身を置けばいいんだと思うようになりました」
回避する、というと逃げているように聞こえてしまうが、少し違う。自分の考えを歪めてまで既存の組織やシステム、考え方に合わせにいかない。周りに振り回されず、自分の大切にしている価値観を優先させればいい、ということだ。