科学技術を使った情報収集分析が脚光を浴びるなか、目を引いたのが量子耐性暗号体系についての報告だった。国情院は「情報保護のため、スーパーコンピューターを使った場合でも、数百万年かかっても解けない暗号を使っている」と説明。「ただ、量子コンピューターの時代になれば、今の暗号が無力化するかもしれず、先手を打った対応をしている」と説明したという。
量子コンピューターは、既存のスパコンでも何万年もかかる計算を短時間でこなす高速計算機能を持つ。米中が高性能量子コンピューターの開発競争を繰り広げている。一方、量子暗号は、第三者が傍受しても絶対に解読できない暗号とされる。送信者は受信者に暗号文を送ると同時に、暗号を解くためのキー(鍵)を、光の粒子を使って送る。量子力学の理論上、第三者が傍受した場合に粒子の性質が変わってしまうので、解読が不可能だという。中国はすでに、この量子暗号のキーを送る実験に成功したとされる。米英豪3カ国が9月15日に発表した、新たな安全保障協力の枠組み「AUKUS」の協力項目にも、量子技術が挙がっている。
暗号は戦争や外交の世界に欠かせないツールだった。1942年6月のミッドウェー海戦では、日本軍は、ミッドウェーを意味する「AF」という暗号を使っていた。米軍は「ミッドウェーは真水が不足している」という偽情報を流したうえで、日本軍の「AFは水が不足している」という電文を傍受することに成功した。自衛隊の元幹部は「北海道で演習を行うとき、ソ連軍の戦車を自動車に見立てた簡単な暗号を決めていました。敵が出現しそうなポイントを山田さんのガレージ、鈴木さんのガレージなどにして、訓練では『自動車が3台、山田さんのガレージに入りました』などと言い換えていました。ソ連軍はいつも自衛隊の無線を傍受しているので、訓練ごとに暗号を作り直したりもしました」と語る。