韓国と北朝鮮 情報戦のなかで変わりゆく暗号の世界

2020年5月のテレビ映像(Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images)


外務省は、北京やモスクワなどの重要な在外公館には通称、「金魚鉢」と呼ばれる、いかなる電波も通さない特殊な部屋を設けている。第三者による通信傍受を避けるためだ。在外公館と外務本省とのやり取りでは暗号文を使い、暗号を解くキーは、クーリエ(外交伝書使)が、第三国の検査を受けないパウチ(外交行囊)に入れて直接運んでいる。

北朝鮮の暗号技術の進歩も、目を見張るものがあるという。北朝鮮が初期にやっていたのは原始的なやり取りだった。北朝鮮の元秘密工作員は1980年代、たびたび西日本の海岸に上陸した。日本に潜伏する工作員の交代や連絡を支援するためだった。海岸に上がると、砂浜で拾った小石を2つ、両手ですり合わせるように「チョン、チョン」と鳴らした。すると、海岸で待っていた工作員も同じように音を出した。音の回数は事前に、「こちらが1回なら、相手は3回」というように決めていた。音を確認するとお互いに接近し、今度も事前に決めた合図であいさつした。「親」なら「子ども」、「動物」なら「子犬」といった具合だったという。

そんな原始的な手法を使っていた北朝鮮だったが、今年の夏に騒ぎになった「忠北(忠清北道)同志会スパイ団事件」では新たな顔を見せた。韓国忠清北道清洲にある同志会のメンバー4人が、北朝鮮に情報を流していた罪で拘束され、3人が起訴された。この事件で韓国警察当局が関係先を家宅捜索したところ、ステガノグラフィーが発見されたという。ステガノグラフィーとは、秘密の情報を、平凡な画像などの中に潜り込ませて隠す技術のことだ。韓国の情報関係筋は「北朝鮮のこうした技術の進展には目を見張るものがある」と語る。

今の世の中は、デカップリングの時代だと言われる。特に、「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)構想を掲げる米国陣営と、「一帯一路」を推進する中国陣営が厳しく競り合っている。お互いに、最新鋭の軍事装備から宇宙開発、温室効果ガス削減効果のある技術まで、様々な情報を相手に渡さないよう神経をとがらせている。こうした熾烈な対立が、量子暗号の開発を後押ししている側面は否定できないだろう。

競争は人類が発展するうえで必要な要素ではある。暗号が要らない世の中など、想像もできないが、できる限り、暗号が要らない世の中であって欲しいとも思う。

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文=牧野愛博

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