貧困層の生活を改善したい
一方で、コンパスは、大阪府と兵庫県を中心に約800人分の採用枠を確保しており、求人する企業と契約している。同社のサービスでは、会員から家族構成、希望年収、前の仕事をやめた理由、真面目か粘り強いかなどの性格、何にお金を使っているのか、借金の有無などをコンサルタントがきめ細かく聴き取って、本人に合う仕事を紹介する。そして、採用した会社が同社に手数料を支払うというビジネスモデルだ。大津は言う。
「我々が対象とするのは、年収500万円以下の方たちです。年収の15%程度を手数料とする大手転職紹介会社ではコストが合わなくなる層です。当社は、オンラインでの相談を徹底することで、人件費を抑えています」
コロナ禍になって、このサービスに着目したのは自治体だった。自治体では、地域経済の活性化や生活困窮者対策のために、窓口などで就職相談を受ける事業を展開している。
昨年1月、国は「地域就職氷河期世代支援加速化交付金」を創設し、就職氷河期世代への支援を強化する自治体を後押しすることを決めた。だが、その直後に新型コロナの第一波が到来する。
すると、窓口での対面相談ができなくなり、オンラインに転換せざるを得なくなった。そこで、大津のコンパスに白羽の矢が立ったのだ。就職氷河期世代で非正規の仕事についている層が同社のターゲット年収層とほぼ一致していることも追い風となった。
昨年7月、コンパスは前述の交付金を財源にした神戸市の事業に採択され、それを皮切りに、京都市や宝塚市など5つの自治体から事業を請け負うことになる。
神戸市の職業紹介サービス「SODAMO(ソダモ)」
これら自治体向けサービスでは、5年以上の経験があるキャリアコンサルタントの実体験や暗黙知をもとに、利用者がLINE上で40項目のアンケートに回答すると、その結果をAIが解析し、本人に合った業種や会社を紹介できるように進化させている。大津は次のように今後の展望を語る。
「採用企業側が支払う手数料は自治体からの委託料によって賄われるため、地域経済を担う地元企業にとってはメリットが大きいと思います。ただ、紹介した方が短期間で離職した場合などは、自治体により厳しい指摘が入ることもあるため、責任感を持って仕事に取り組むことができる優良な人材をいかに増やしていくのかが、ますます大事になってくると思います。
将来は、リカレント教育(学び直し)に取り組むスタートアップと連携したり、やりがいを持って働ける仕事に転職できたことを当社から銀行に伝えて一時的な資金を融資してもらえるようにしたり、貧困層といわれる人たちの生活を改善するサポートをしていきたい」
自治体のデジタル化が求められるなかで、LINEでやり取りするのは、新しい行政サービスのあり方ではないだろうか。現在、コンパスは、神戸に本社を置きながら京都にも拠点を構えるが、全国の複数の自治体から相談を持ちかけられており、東京での拠点開設も計画している。同社の成長には、自治体の人間としてこれからも注目していきたい。
連載:地方発イノベーションの秘訣
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