今回登場するのは、大阪府八尾市に本社を構える木村石鹸工業の4代目、木村祥一郎社長。海外から石鹸の素を輸入して国内で加工するメーカーが多いなか、同社では1924年の創業時から受け継ぐ釜焚き製法で、石鹸の素から手づくりしている。
もともとは銭湯などを顧客とした業務用石鹸や家庭用製品のOEM生産を主軸としていたが、木村社長が主導し、2015年に天然素材でつくるハウスケアシリーズ「SOMALI(ソマリ)」を販売。インターネットを中心に販路を広げ、国内外で根強いファンを獲得している。
木村社長は、大学在学中の1995年に、検索エンジン事業を手掛けるベンチャー企業ジャパンサーチエンジン(現イー・エージェンシー)を起業し、2013年まで副社長を務めていた。なぜ、IT業界から転身して、家業の石鹸づくりに関わることになったのか。
木村祥一郎社長の人生グラフ
1. 22歳(1994年):インターネットに初接続。世界と繋がる感動を覚え、起業。
2. 41歳(2013年):実家の要望により、木村石鹸工業の常務取締役に就任。前職が充実していただけに、「これからの人生は、仕事は仕事と割り切らなくては」という諦めを感じた。
3. 44歳(2016年):木村石鹸工業の代表取締役社長に就任。入社時の考えがガラッと変わる。信頼できるスタッフと面白い仕事ができる楽しさを実感している。
──どんな学生生活を送っていましたか?
大学では映画サークルに所属していました。小説も好きで、気に入った作家の作品は片っ端から読んでいましたね。
長男だったので、子どもの頃から「お前は木村石鹸を継ぐんだぞ」と親に言われ続けていたんです。なんだか自分の人生を勝手に決められている気がして、「どうしたら自分の人生を生きることができるのか」と、その答えを映画や小説の世界に求めていたのかもしれません。
もっとも影響を受けたのは、詩人で劇作家である寺山修司さんです。「どんな鳥だって、想像力より高く飛ぶことはできない」という彼の言葉に触発されて、クリエイティブな世界に憧れを抱くようになりました。
当時は、石鹸をつくっている親父が全然クリエイティブには見えなかった。自分は違うことをしたいという想いが強くありました。
四歳ぐらいの頃。工場で石鹸を運んでいる